A都市計画制度 3-マスタープラン
今回は自治体の都市計画のベースであるマスタープランの紹介をします。
マスタープランとは?
マスタープランとは都市計画の方針を示す所信表明です。人口・産業等の将来的な見通し、住民の意見等を踏まえてその都市の将来像を想定し、その実現に向けた方針を示すものです。マスタープランは2種類あり、それぞれ都市計画区域マスタープラン(通称:区域マス)・市町村マスタープラン(通称:都市マス/市町村マス)です。法律上はそれぞれ都市計画法第6条の2、第18条の2で定められています(余談ですが、第XX条の2、第YY条の3的な法律は後付けです)。
都市計画マスタープランは2000年、市町村マスタープランは1992年に導入されました(都市計画法は1968年なので後付けということです)。それ以前の都市計画は全国一律で進められる中央集権的な様相が強かったのですが、1990年代に地方分権の動きが進み、各自治体の実情に応じた、地域特性を活かした計画を立案できるようにしました。
マスタープランでは将来像があり、その将来像に辿り着くためのアプローチが大まかに記されるのでバックキャスティング的な方法だといえます。
加えて、マスタープランは住民向けに作られており、ビジュアル的な観点では非常に見やすいです。専門用語も少なく、難しい計算も登場しません。
都市計画区域マスタープラン
都市計画区域に対するマスタープランです。定めるのは都道府県で、記すべきことは以下です。
区域区分の決定の有無、決定する場合はその方針(義務)
都市計画の目標(努力義務)
土地利用、都市施設の整備及び市街地開発事業に関する都市計画の決定の方針(努力義務)
その他、防災・景観・環境など都市計画区域の独自項目が書かれている場合もあります。目標期間はバラバラですが約20年が多い感じです。
2000年の都市計画区域マスタープランの導入時に、区域区分が(一部地域を除き)選択制になりました。A-1で触れましたが、都市計画区域マスタープランでは広域的な視点から当該地域の土地利用の在り方が記述されます。
市町村マスタープラン
名前の通り各市町村(+東京23区)が定めるマスタープランです。大学で「マスタープラン」が登場する場合はこっちを指す場合が多い気がします。こちらは自治体が定める将来像に対しての取り組みが記されます。記載事項(必ず記すこと)はありませんが多く市町村マスタープランでは将来像・自治体全体の目標・地区ごとの目標が記されています。都市計画区域マスタープラン同様、期間は10-20年後の設定が多いです。自治体の都市計画(Ex.都市計画道路:主要な道路の決定)は市町村マスタープランに従う必要があり、計画の度にその整合性がチェックされます。
人口減少が深刻化し、効率的な行政サービス実現が求められるようになった2014年には改正都市再生特別措置法に基づく立地適正化計画制度が決定しました。立地適正化計画とは、人口が都市の一部に集中するコンパクトシティの実現のため、立地適正化計画区域(≒都市計画区域)内に居住誘導区域と都市機能誘導区域を定める制度(任意)です。それぞれ以下の内容です。
居住誘導区域:人口密度を維持して生活サービスやコミュニティが持続的に確保されるよう、居住を誘導すべき区域
都市機能誘導区域:居住誘導区域内にあり、医療・福祉・商業等の都市機能を都市の中心拠点・生活拠点に誘導し集約することで、各種サービスの効率的な提供を図る区域
なぜこんな話をしたのかというと、立地適正化計画を実施した自治体(2024年3月時点で747自治体)では、市町村マスタープランに立地適正化計画との関連も示されているからです。例えば🔸🔺市のJR🔸🔺駅周辺は市のマスタープランでは中心的な商業機能を担う中心拠点に指定されており、それに対応する形で立地適正化計画では都市機能誘導区域になっている、といった感じです。国土交通省は立地適正化計画を「市町村マスタープランの高度化版」と位置付けています。
立地適正化計画を行うと、公共施設の整備等に国から交付金が支給される場合がある一方、規制が厳しくなり例えば居住誘導区域外での開発行為(建築のために土地に手を加えること)に対して自治体に届出が必要になるといったことが具体的に生じます。
広域マスタープラン
一部の都県では、都市計画区域マスタープランに加えて、広域マスタープランを独自に策定しています。軸や拠点が書かれているなど、内容は市町村マスタープランを都県単位に拡張した感じです。
マスタープランに対する見解
マスタープラン自体は法的な拘束力がありません。前述の都市計画道路の例のように、マスタープランが重大な影響を及ぼす局面はありますが、あくまで行政単独の計画なので、多様なステークホルダーが関わる実際の社会では自治体の将来がマスタープラン通りの都市構造になる保証はありません。これは仕方ない気がしますが、このことがマスタープランに対する批判の原因にもなっています。
また、住民参加が多くの自治体で実現されていないことは現状です。そもそも大多数の人は都市計画制度に詳しくないため、参加(意思表明)することすらありません。特に大都市ではマスタープランの方針が住民の声に反している(一部の意見のみを拾っている)という指摘も散見されます。
個人的にはマスタープランは分かりやすく作られており、自治体による将来像の検討や、住民参加の促進にはうってつけの材料だと思います。一方で、現状の枠組みではマスタープランがその役割を果たせていないと感じる場面もあり、議論の余地があっても良さそうです。
ダラダラ記述しましたが、以上です。私も多くの自治体のマスタープランを覗いたわけではない立場で、まとまりがない記事になってしまい申し訳ありません。次回以降は気をつけます。次回は用途地域を扱います。
参考文献
国土交通省 都市計画法制
国土交通省 土地利用計画制度
国土交通省 立地適正化計画制度
芦屋市
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