君と宇宙を歩くために/泥ノ田犬彦 感想

試し読みの1話が素晴らしすぎて、もっとこの世界観に浸りたいと思いすぐに購入して何度も読み返しています。現在2巻まで出ていますが今後もとても楽しみ。
以下ネタバレ考慮なしで好きなところを挙げるだけ

・小林の人間性
ちょっと現実味ないくらい性根のまっすぐな子ですが、彼が主人公であることで不快な思いをせずに読めるという安心感がすごい。
高校生(まして作中の言葉を借りれば底辺高のヤンキー)でここまで他人を素直に認めたり、自分の欠点を見つめたりするのは実際にはとても難しいことだと思います。
宇野君の個性を自然と受け入れて対等に接する姿や、苦手なバイトの事務や勉強に諦めずに取り組む姿勢、感謝や他人を認める言葉をきちんと伝えられる謙虚さは、本当に素晴らしい。見習いたい。
そして井上先生やバイト先の山田さんと同じ目線で彼の人生を応援したくなります。
親友の朔が宇野君を傷つけることをすれば、きちんと怒れるのもすごいことだなと思います。

・明確な分類を避けた表現
本来グラデーションがあるはずのものを、言葉に当てはめて理解した気になっていたことに気付かされます。
音や光の刺激の表現も素晴らしくて、想像するしかないことだけど、自分にとっては何でもないことも、嫌な刺激に感じる人にとってはきっとこんな風なのかなと思います。
そして自分自身も、不安な気持ちになるときはこんな感じ方をしたりするなあと思ったり。
表情やモノローグによる心情表現も豊かでぐっときます。

・生きるための工夫
1話で宇野君のお姉さんが言う台詞がとても好き。
普通の人にはできて当然と思われていることを、できるように工夫している宇野君はすごい。
それをかっこいいと思って歩み寄れる小林君もすごい。
頑張っている人はすごい。でも、頑張ってもできないときもある。それは怖くて恥ずかしくて悔しくて、涙が出るときもある。
それでも前向きに努力している彼らが眩しい。
自分も頑張ろうとか、他の人の頑張りを認められるようになりたいとか、温かい気持ちにさせてくれる作品です。

・小林と宇野の友情
お互いこんないい友達ができて良かったねえ…と親のような気持ちになり何回読んでも何回でも泣けます。
お互いが尊敬し合っていること、一緒にいると楽しいと思っていること、相手を傷つけたり失礼なことをしてくる人には正面から怒れること、こんな素晴らしい友達そうそうできるものではない。
それぞれに生きづらさを抱えた2人が、お互いの存在で少しずつ生きやすくなるのが素敵。
小林の見た目や素行の悪さから、傍目には純粋な友人関係ではないと誤解されてしまうのもリアルだし、その誤解で終わらずにきちんと理解してくれる天文部の雰囲気も好き。井上先生は聖人だし、先輩も宇野と小林を受け入れてくれるのがいい。

・宇野姉の雰囲気
弟を大事に思っているところや、弟の周囲の人間への接し方が好き。
過保護気味とは言え、このテーマの作品としては行きすぎた過保護ではない気がして、きちんと弟の人格を尊重しているお姉さんに感じます。
とは言え、すれ違うことはどうしてもある。
宇野君が小林とずっと一緒にいて疲れが溜まって倒れたとき、お姉ちゃんには絶対に分からない 僕がどれだけ楽しかったか というシーンは胸が詰まります。

・朔の雰囲気
どうしても主人公サイドから見れば嫌な面があって、でも実際の高校生ってこんなもんだよなとも思うし、ある意味一番現実的なキャラクターに感じます。
でも悪いやつとも言い切れないし、小林を彼なりに大事に思ってるのは本当だろうし、図らずも宇野とお互いちゃん付けになってるのが面白い。
彼はまたいろんな面を見せてくれそうで楽しみです。

・小林のバイト先の雰囲気
いい人ばかりじゃない、苦手な人もいる。
でも苦手な人にもいい面がある。
いい人に見えても、嫌なことを考えていたりする。
事務処理のときの頭の使い方や、コミュニケーションの取り方は人それぞれで、口に出してみないと違うことにも気づかない。
いろんな人間がいてすごくリアルですよね。
すべてが上手く行くわけじゃなくても、踏み出せばきちんとコミュニケーションが取れて、みんなで前向きに改善していける職場なのは素晴らしい。もっとみんなにとって居心地の良い場になっていくといいな。

扱っているテーマは決して軽くはないし、これからもきっとさまざまな困難に直面していくんだろうけれど、みんなの頑張る姿に勇気をもらいながら、少しずつ前よりも幸せになっていく彼らを見守りたいと思っています。

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