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避難所に診療所を1日で開設

 令和6年能登半島地震では、珠洲市や輪島市などが壊滅的な被害を受け、被災家屋数は『多数』としか表現できないほど調査は進まず、水道の復旧は『春頃』など曖昧な表現で先が見通せていません。
 避難所には電源車と給水車で仮のインフラを整えていますが、高齢化率が50%を超える地域での避難者には健康弱者が非常に多く、安全な生活が確保できる訳ではありません。
 そこで石川県では、前述の1次避難所から2次避難所に移動するまでの間の急場をしのぐ1.5次避難所を開設しました。
 1.5次避難所はいしかわ総合スポーツセンター、簡単に言えば生活インフラが使える体育館なので、アパートやホテルとはまったく違います。

 石川県では、そこに発生した課題を、短期に対応していました。


臨時診療所開設の要望(1月18日)

 2024年1月18日に被災地を訪問した武見厚生労働大臣は同日の石川県災害対策本部員会議にも出席し、以下のように述べています。

『1.5次避難所であるいしかわ総合スポーツセンターに伺いましたが、避難者の方への通常の診療ができる特設の診療拠点を速やかに設けるよう要望をいただきました』
『実際に行ってみますと、大半の方が本来の施設介護を必要とされる(避難所)入所者の方が大変多くいらっしゃいました。明らかに医療的な対応が必要である(避難所)入所者の方を拝見しまして、この施設の中に簡易的な診療所を確保して初動時期における医療的対応を行う事が、速やかに実施されなければならないことがよくわかりましたので、ご要望を早速受けまして、厚労省の担当に、(石川)県庁と連携して通常の診療ができる特設の診療の拠点を速やかに設けるよう、緊急で対応するよう指示を出したところであります。』

第25回災害対策本部員会議 武見大臣発言

※.上記動画10分27秒より臨時避難所関連


臨時診療所開設(1月19日)

 第26回災害対策本部員会議の冒頭にある本部長(馳知事)の発言に以下のものがありました。

『本日スポセンで県立中央病院の臨時診療所が開設しました』

第26回災害対策本部員会議 知事冒頭発言


なぜ、診療所なのか?

 災害時にはDMAT(ディーマット)、日本語では災害派遣医療チームが被災地で活躍しますが、このDMATは元々、災害で発生するケガ人などを診療する48時間以内の急性期医療に対して活動する医療チームです。COVID-19を経て活動にも変化がありますが、平時に行われるような通常診療は目的外です。

 ボランティアで避難所を訪れた医師が、そこに居る人を診療することは可能ですが、薬の処方や検査のオーダーなどすべてが自由診療、すなわち全額自費になります。責任の所在も曖昧になります。

 国内の多くの診療所は『保険医療機関』ですが、保険診療を行わない美容クリニックなどでは保険医療機関としては届け出ていない診療所があります。いずれの場合も医師法の下で診療が行われるので責務は共通します。

 おそらく今回は保険医療機関として届け出て、それを受理して診療所開設に至っていると思います。来月には資料を閲覧して確認したいと思います。

 保険医療機関になれば、持病がある患者さんは発災前と同じ薬やリハビリの処方を受けることができます。


被災地医療の永続性

 筆者は、東日本大震災の被災地に国立高度医療研究センターの視察団員として訪問したことがあります。被災地の医師らは、立ち去り型の医療支援が多く『続ける』ということがいかに大変かを実感している旨を話されていました。

 日本循環器学会では2週間単位でボランティア医師を派遣していました。時期が来れば人は入れ替わるが『循環器医師1名』という枠は継続的に確保するという取り組みです。ボランティア医師と被災地ニーズをマッチングする仕組みがありました。

 保険医療機関で診療にあたる医師は、医師法を遵守することはもちろんですが、療養担当規則という法律も守らなければならないので、一定の質が担保されることになります。

 『被災者』や『避難者』という特別な枠組みではなく、国民皆保険制度の下で均霑化されている医療を受け、自己負担分は通常通り支払っていれば、そこで行われる診療は普遍的な医療であり、補助金打ち切りなどが診療の停止にはつながらないことになります。
 現状では避難者が1,000人規模、9割が高齢者と言われており、900人を週1回ずつ診療しても月~土で1日150人です。医科の再診料を730円とすると1日109,500円、医師2人、看護師1人、事務1人で150人に対応すると人件費だけで赤字になりそうですが、石川県立中央病院が人件費を全額負担するよりは収入がある分だけ永続性が高まると思います。

【参考】医師法
【参考】保険医療機関及び保険医療養担当規則

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