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コピーの公募【C-1グランプリ】グランプリを受賞しました-制作エピソード・木下龍也さん歌集についてなど-


クリエイティブの専門誌『ブレーン』の公募企画【C-1グランプリ】にて【短歌に親しみのない人が歌集を読んでみたくなるコピー】というお題で応募した作品がグランプリを受賞しました!

(ブレーン2024年1月号より)
制作:電通zero アートディレクター/えぐちりか様

出題者・審査員で歌人の木下龍也さま、ありがとうございます。
言葉を日々紡いでいる方が、このコピーから何かを感じ取ってくださったことが本当に嬉しくて、一生の誇りです。コピーライティングを通じて『伝えること』に真剣に向き合ってよかったという気持ちです。また、私自身も短歌の世界に触れるきっかけをいただきました。10年後も私はきっとどこかで、短歌に親しみながら生きているんじゃないかと思います。

そして、アートディレクターのえぐちりかさまによって素敵なポスターに仕上げていただき、感激しています。ポスター化を知った際「どんなビジュアルになるのだろう」とわくわくし、同時にすこし「ぶっとんだ世界観でスミマセン…」という気持ちになりました(笑)。冷静に考えて「いやそもそもメガネを借りることがないだろ…」とセルフツッコミせざるを得ません。なかなかの無理難題なのでは?…こんな依頼を受けたらきっと、私なら泣いてます(?)。ですが、プロフェッショナルの魔法で予想を超えたポスターに仕上げていただきました。

思いがけず世の中の解像度が上がった様子を、驚いた顔の少女の写真に、メガネをかけた大人の目をコラージュすることで表現してみました。

えぐちりか様 コメント(ブレーン1月号より)

とのこと。なんとチャーミングで愛らしい世界観…こちらもまた一生の宝とさせていただきます…!


C-1グランプリについて

今回のC-1グランプリは第200回記念回ということで、4つの特別課題が出題され、QuizKnockの伊沢拓司さんによるお題もありました!受賞作は12月1日発売『ブレーン』1月号に掲載されています。他のテーマも含め、ぜひ多くの方に見ていただければ嬉しいです。


コピーが生まれた経緯

受賞作について、一見「どういうことなんだろう?」と思う方もいらっしゃるかもしれないので、どんな想いのもとにコピーが生まれたかを書いていこうと思います。

今年4月から宣伝会議のコピーライター養成講座に通い始め、受講仲間からC-1グランプリの存在を教えてもらって挑戦しました。
どうやら、クイズ・優先席・ハチ公・短歌の4つのテーマがあるらしい。他の3つのテーマとは違って「知らない人は本当に知らない」というゼロの状態からひっくり返さないといけない。私も短歌はこれまで触れてこなかったので全くイメージができず、今だから言えますが「このお題はちょっと難しいかなぁ…」と思っていました。

幸いにも仲間内に短歌経験者がおり、手持ちの歌集を読ませてくれました。

そこで、はじめて歌集のなかの短歌を目にした瞬間、
あ、すごい、これは。となりました。
身体を熱い風が駆けていくような感覚になりました。

たぶん、もう追いつけないな踊り場で見上げるきみがいつも逆光

『イマジナシオン』(toron*/書肆侃侃房)

雨粒が字幕のように流れゆく街を見ていた特急の窓

『イマジナシオン』(toron*/書肆侃侃房)

花びらがひとつ車内に落ちていて誰を乗せたの始発のメトロ

『イマジナシオン』(toron*/書肆侃侃房)

そこにあるのは31音の縦書きの文字だけなのに、
まるで、映像が浮かびあがってくるみたい。

光があって、ときには音もある。
見えないはずの風が見えることもある。

そのひとが頭のなかに描いた世界を追体験できる感覚、
そのひと目線になれる感覚、
そのひとのなかに入り込めるような感覚、

短歌を知らない人に、知ってるけど素通りしている人に
なんとかどうにかして伝えたいなぁ…と
思いをめぐらせているうちに、すっと出てきた言葉だったと記憶しています。

借りたメガネなのにくっきり見える。そんな感覚。

ひとり5作品まで提出できるのですが、これがいちばん飾らず素直に書いたコピーだったと振り返ってみて思います。

短歌の世界に魅了された私はC-1に取り組むのもそこそこに(⁈)、出題者である木下龍也さんの著書『天才による凡人のための短歌教室』を即手配しました。

そしてこれを読み終わる頃には、わたしも短歌を詠んでみようかな、と思ってしまいました。もう片足は沼でした。「ほんとうに短歌でいいのか。」という三度の念押しにもかかわらず。(詳細はぜひ、読んでみてください!)

短歌をつくってみた

実際にやってみると、読んだ人に伝わるカタチで31音にまとめるのは、思っていたより簡単じゃないなと感じました。経験者に作品を見てもらいましたが、わたしは、欲張っていろんなことを詰め込もうとしてしまうタイプのようで…。短歌は『一瞬を切り取るもの』『(ストーリーというよりは)シーンを描くもの』なのだと教えてもらいました。

あらためて『一瞬を切り取る』という短歌の本質に気づき、いま振り返って『読める』ではなく『見える』と表現したこのコピーを選んでいただけた理由が、少しだけわかったような気がします(ぜんぜん違ってたらすみません…)。

実際に詠んでみたことで、歌人の表現力の素晴らしさを身をもって感じることができました。

初心者なりに私も短歌をぼちぼち楽しんでいます。SNS投稿やNHK短歌でたくさんの作品を知って「こんなにすばらしい表現を思いつく人がいるのか」という希望と絶望を同時に味わいながら…(笑)
また「短歌は文字だけで読む人のなかに映像を描けるのが魅力」などと言っておきながら矛盾しているかもしれませんが、写真を撮るのも好きなので、写真と短歌を組み合わせた表現もチャレンジしています。
これからもコピーはゴリゴリ、短歌はコツコツ地道にやっていきたいと思います。


さあ、歌集を読もう ー木下龍也さん歌集紹介ー

短歌ビギナーの私の話はそこそこに、「歌集に興味をもった」という方に向けて、出題者の木下龍也さんの歌集と、私の特に好きな歌を(勝手ながら)ご紹介させていただければと思います。

  • オールアラウンドユー

雪だったころつけられた足跡を忘れられないひとひらの水

雪がもう跡形もなく溶けてしまっていることが、
「あなた」がもう居ない寂しさを際立たせているよう。

母さんの入院中に父さんはチキンラーメンばかり煮ていた

長い結婚生活、料理など家庭のことは全て「母さん」が担い
家族を支えてきてくれたのかもしれません。

チョコレート菓子から先に秋となりその色合いに木々が従う

9月になっても暑い、10月も11月もまだ暑い。
年々、秋が短くなっていることを実感する瞬間です。
  • あなたのための短歌集

お題をもちかけた依頼者だけのために作られた短歌を収録した歌集ですが、「わたしの心にも響いた」と感じられる作品に出会えます。

絶望もしばらく抱いてやればふと弱みを見せるその時に刺せ

終わりがないように思える絶望に
「刺せ」の読後感をお守りにしたくなります。

山を越え「ふう」と漏らしたため息にあなたが「ふ」って笑いを添える

「コロナ禍に楽しい夫婦生活を」とのお題に対して。
31音にここまで遊び心を詰め込めるのかと感動しました。

愛された犬は来世で風となりあなたの日々を何度も撫でる

たとえ愛する存在を失ったとしても、
心の中でずっと生き続けるーー
そう思えたら、いま一緒に居られる時間が
もっと愛おしく感じられそうです。

こちらの短歌をもとにした絵本も出版されています。愛くるしい犬の姿と、それを包みこむ飼い主の愛に心がぎゅっとなりました。

『きみと風』(作)夏生さえり/(絵)くまおり純

C-1出題にあたり、木下さんは以下の言葉を寄せられていました。

短歌ブームらしいです、いま。でも、流行りがあれば、廃りがあります。だから、ブームというよりは、世の中の人が日常的に接するものにしたいんです、短歌を、歌集を。

(ブレーン9月号)

歌集を読んでみようかな、と心が動いた人がいるかもしれません。
今回のコピーが、少しでもその一助になれば嬉しいです。

私も短歌を知る入口に立ったばかりなので、
みなさまの素敵な作品に、これからもっと触れていきたいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。


★短歌との出会いエピソードはこちらの記事にも書いています。
初めて手にした歌集である、toron*さんという歌人の『イマジナシオン』をご紹介させていただいています!




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