天乃志希

自創作(小説)置き場。 Twitterがメインです(@amn_ih)。

天乃志希

自創作(小説)置き場。 Twitterがメインです(@amn_ih)。

マガジン

  • 企画創作

    Twitter身内企画「エルケセドの塔」の小説まとめです。センシティブな表現がありますのでご注意下さい。

  • 単発創作

最近の記事

【エル塔】やがて泡になる

 今日の仕事も終えた。私は帰路につきながら、時折エルケセドの中心にある塔を見上げた。エルケセドの象徴。仕事を終えたのだから、足取りは軽くなければいけないのに、私の足取りは重かった。地面を見ながら歩くと、私の影がぐんぐんと伸びていく。黒い影。黒く、黒く、どこまでも深い影。私を飲み込んでしまうのではないかと錯覚するほどで、そこから先に一歩踏み出すことも躊躇われた。  あの子は、私の目論見通りエルケセドにやってきた。私の思い描いた通り、彼女の傍に居られているし、彼女の役にも立ててい

    • 【エル塔_納涼】残暑の贈り物

      「かざり、アンタ、モデルになりなさい。」 「……え?」  唐突に、しかし私にとっては決まり切っていたことを言葉にして告げる。仲介人としての仕事をしている最中だったかざりは、私のほうに振り向くほど、驚いたようだ。私はデザイン帳を持つと立ち上がり、かざりのほうへと歩いていく。 「……浴衣。」 「そう、納涼会?ってイベントがあるんでしょ。宣伝に使えるのであればなんでも使うのが私の主義。」 「そのモデルが……私ですか?」 「使うものはなんでも使うって言ったでしょ。」  ここに来る前は

      • 【エル塔】哀満ち、愛満ちる

         人間の社会から古代の神が居なくなったのは、もう数千年も前の話。数千年前は何をするにも人が神に祈りを捧げていた。その中でも「雨乞い」。それに応えてきた雨神の一つが「八大竜王」。まあ、調べてみれば色々出てくるだろうが、竜の種族の中でも当初の位は高いほうだったようだ。それがまあ紆余曲折あって――俺がいる。数千年後の八大竜王の末裔なんて大きな看板を抱えているものの、そこまで俺自身が立派だということではない。八大竜王の血だって薄まってきている。俺はただの「スイレン」。少し竜の特徴を残

        • 【エル塔】椛の服の話

           私は利用客が少ない自分の店頭で、真っ白いシャツを眺めていた。エルケセドに来てから数日目。まだ店は開店していないので、「店」と呼称すること自体烏滸がましいのかもしれない。この真っ白いシャツはエルケセドからの支給品だ。特別な素材を使われているわけでもないし、耐久性も良さそうではない。タダであるということだけがこれの利点と言ってもいい。 「まあでも、タダだし……。」  店に置いてある裁ちばさみとミシンを用意すると、ジャキジャキと生地を切っていく。襟が詰まっている服は嫌い。オフショ

        【エル塔】やがて泡になる

        マガジン

        • 企画創作
          7本
        • 単発創作
          2本

        記事

          【エル塔】iにfは要らない

          ※児童虐待の描写がございます。  人生において、手に入らないものはなかった。それが真実だろうがハリボテだろうが、そこにあればその真偽は問わなかったからだろうけれど。欲しいものは手に入れるのがモットーだったし、その道筋を組み立て、何をすればいいのかを理解することが出来た。  けれど、今となってはすべて私の手にあったものはハリボテだったのかもしれない。そんな私を人は憐れむだろうか?憐れんでくれた見ず知らずの貴方、ありがとう。だけれど、私を消費して優越感に浸るのはやめて。私の人生

          【エル塔】iにfは要らない

          【エル塔_星祭】欲張りなロマンチスト

           エルケセドの星衣の祭り。七夕の風習を商業都市であるエルケセドなりに昇華した祭りの時期が今年もまた、やってくる。魔法の発展していない別の都市では、捕えられた罪人が四季を忘れてしまわないようにと、季節の行事だけは彼らに提供していたと聞く。エルケセドにいる出店者はこの塔から生涯出ることは叶わず、毎年毎年、来る行事を見ては何を想うのだろうか。  しかし、季節のモチーフを期間限定で販売するだけあり、出店者も仲介人も忙しない。仲介人である私も例外はなく、ぱたぱたと長いスカートを揺らし、

          【エル塔_星祭】欲張りなロマンチスト

          【エル塔】将来の夢

          人生において、不幸せだったこと等何一つなかった。両親は私を愛してくれ、一心に愛情を受けて育てられた子供だったと思う。魔力がほとんどなかったことだって、個性の一つだと思っていた。中学生に上がり、多少なりとも魔力の使い方という授業が必修として備えられていた。そこで魔法が使えなくても、特に悲しくはなかった。魔法が使えなくとも、学力はあり、そういう職だって当たり前に用意されていた。それに、私の夢は魔法を使って何かをするとか、そういうことじゃなかった。お嫁さんになりたかったから、何かで

          【エル塔】将来の夢

          エッセイもどき

          部屋の掃除をした。右手にはスポンジ、左手には霧吹きの形をしたカビに効く掃除道具。 毎日目まぐるしく動き回り、全く気づかずに居たけれど、フローリングに寝転んでみてはじめてそこにカビがあることに気づいたのだ。広いのに使われていないベランダの代わりに、狭い部屋を陣取るように置かれた物干し竿。普段はタオルが掛けられているその奥の壁が、黒カビに侵されていたなどと、誰が気づけようか。 小さなカーペットに吸い込まれていく涙で滲んだ視界が、何故かそれを捉えた。どうにかしなきゃ、と思いなが

          エッセイもどき

          過去作

          ざぶん、と波の音。 ゆらめく水面をぼんやりと眺めた。スパー、と葉巻を肺に浸透するように深く吸ってがぱ、と口を開く。そこからはまるで機関車のように煙が排出された。身体中をよくないものが満たしていくのを考えて、こうして思考することすらいつしかこれによって奪われていくのだと体育座りをして意味の無い言葉を吐き出す壊れた機械のように成り果てた同胞を思い出す。きっといつか自分もそうなる、わかってはいるけれど廃人になる前に戦死するほうが多い世の中だ。カミサマがいたのならどうしてこんな世界を