私はボイストレーニングを受けたことがある

2016年4月に私は東京都内にある大学に入学しました。

私は入試直近の期間を含む高校生活全体を通してほとんど無気力だったので、1日あたり10時間机に向かっていたとしても真に勉強していた時間は10分程度だったと思われ、それ以外の時間は勉強を頑張っているフリをしていました。そのような不勉強さがあったので、私は志望した大学にはほぼ間違いなく不合格になるだろうと常に思っていました。これらに起因する精神に対する負荷を抱え続けてきた状況で自分の合格を知ったので、これからはこれまでの怠慢のことは忘れて学生生活を頑張ろうという思いつきと、単純に2年前からの目標が達成されて嬉しいという気持ちが混ざって、私はハイ(high)の気分になっていました(ちなみに、合格した大学は前期試験で受験したので、入試終了からの期間は後期試験(他の大学)のための勉強をしていて、前期試験合格がわかった時点でそちらの方の受験はキャンセルしたのですが、そのときの私に対する父の発言に「後期試験の勉強はやる気なさそうだったもんな」程度の内容が含まれており、そもそもやる気がなかったのは前期試験までの勉強もそうであったので、彼は一体私の何を見ていたんだろうか、合格した結果ありきで私の過程を決めつけているんだろうか、などと私は非常に憤っていました)。

私は学生生活に対してハイであったために、大学1年前期の履修は規則で定められた上限まで講義を取り、6月からは人生初のアルバイトを始め、週5日(平日3日と土日両方の組み合わせで、平日はその日の最終コマが終わってから23時まで、土日は1日8時間)のペースで働いていました。

当然ながらそれはタスク量としての適量を大幅に越えたものであり、夏休みが始まる頃には既に私はとても疲弊してしまっており、また、夏休みが始まってからは週5日×1日あたり8時間のペースで働き、勉学からは一切離れていたので、後期が始まってからは私は高校生の頃以上に勉学に対して無気力になっていました。後期の期末試験において必修科目の試験に寝坊したり、内容についていけなくて聴きに行くのをやめた講義の試験を受験しなかったりで、初めて単位をいくつか落としました。

2年前期になるとより一層無気力になり、ほとんど全く講義に集中できなくなり、とある必修科目の単位を落とし、それによって留年が確定しました。その単位を落とした直接の原因はそもそもその科目の期末試験を受けなかったことでした。落とせば留年になることは知っていたし、試験開始時刻の数時間前から大学構内には来ていましたが、試験中のいくら考えても答案を思いつくことができずにただ静かに何もせずじっとしている時間を想像してゾッとしてしまい、試験会場の教室に行くことができず、試験時間中は学食に座っていました。

2017年9月末頃に2年後期に入り、やはり私は勉学に対するやる気はなく、また、一人カラオケにハマっていました。カラオケにハマったきっかけは、2016年夏までに何度か寝坊でアルバイトに遅刻したことにより、それ以上遅刻するのが怖くなって、2016年秋ごろからしばらくは金曜日の夜から土曜日の朝までカラオケで徹夜して9時から18時までアルバイトをして終わってすぐに就寝して日曜日の午前中に起床して12時から21時までアルバイトをするという手法で遅刻を避けるようになったことです。2017年10月16日に初めて自分の歌唱を録音して聴いてみたところ、自分が思うよりも好青年のような歌声をしていることに気づいたことと、高校卒業までの9年間ピアノを習っていたせいか音程についてある程度の精度を有しているのを昔から知っていたことにより、私は自分が歌が上手いという認識を持つようになりました(実際には音程に関しては音痴では全くないもののそれほど精密という訳でもなかったし、発声法を含む歌い方に関してもあまり上手ではないというか聴き苦しいものだったと今は思います)。勉学が全く上手くいっていないという状況でそのような認識を持ってしまったために、私は大卒なんかにならずに歌手になろうとだんだん思うようになりました。

2017年の冬ごろ私はついに、基礎統計の講義中に、この内容がほとんど全くわからない講義に時間を費やすのは全く無駄であって、今このタイミングでボイストレーニングのための学校に申し込むべきであると判断し、実行しました。ボイストレーニングを受けるべきであると思ったのは、私は高音を裏声以外の方法で出すのが苦しく、ミックスボイスとやらを習得すればよいのではないかと思ったからです。また、職業としての歌手になろうと思っていたので、そういった目的を達成できそうな学校を探して申し込みました。とりあえず無料のお試しレッスンがあったのでそれを受けることになりました。

その無料レッスンの構成は、まず、受講者が何か一曲をカラオケ音源で歌い、それを受けて講師がボイストレーニングやボーカルレッスンなどを始めるというもので、私がその一曲に選んだのは Syrup16g の "Reborn" でした。それを聴いた講師はまず少しの間、伝えるべき言葉に迷っているような困ったような様子を見せた後に私に厳しめにコメントしてもよいかを尋ねました。私はそれを聞いて非常に不安になりましたが、プロになるにはそういったものを受け入れなければならないと判断したので「はい、ガンガン来てください」と気丈に見せるように答えました。彼に告げられたことは「音程は取れている」「こういうレッスンを受けに来る人の割には声が出ている」「フレーズの区切りに違和感がある」「歌い方が古い」などでした。それから、「音楽って結局は聴いていて気持ちいいかが大事なのであって技術等が最優先ではない」程度のことを伝えられ、また、レッスン直前に私が回答したアンケートにおける、歌手になりたく、かつ、演奏はしたくなく、かつ、作詞作曲はしたくないという部分を指して、「音楽の道を志すにも関わらず何故歌うこと以外に無関心なのか」ということを問われました。さらには、「自分はプロのミュージシャンと呑みに行ったりもするが、彼らは四六時中『あの曲のこの部分いいよね』などの音楽の話をしている」「君の歌い方は色んな音楽を聴いている人のものではない」という旨のことを告げられました。最後に「まず肩の力を抜いて楽しもう」「色んな曲を聴くところから始めてはどうか」などの提案を受けました。ボイストレーニングやボーカルトレーニングを一切せずに精神的な部分に関するアドバイスだけをするのは珍しいことだったそうです。

レッスン後に別室に移動して、この学校に通うか、通う場合はどのコースにするかなどの相談に移りました(ここで対応したのは先ほどの講師ではなく事務員か何かでした)。私は予想を遥かに上回る否定的評価を得て、息苦しさや動悸が生じている最中でしたが、プロの歌手になるためには負ける訳にはいかないと思ったので、プロコースで契約しました。

お試しレッスン以来、私がその学校にレッスンを受けに行くことはありませんでした。料金は契約時に1か月分前払いしていました(しかもプロコースなので決して安くはない)が、とにかく、レッスンを受けて自分を否定されるのが怖かったので、行くことはできませんでした。契約時に1か月分のレッスン数回の予約を取っていましたが、とにかく行きたくなかったので、初回レッスン予定日の前日夜に自宅最寄りの東急田園都市線に乗って終点の中央林間駅まで行き、東海道線の始発電車の時刻まで歩き続けて、愛知県内のどこかの駅まで電車に乗って折り返して静岡県内のどこかの駅で降りて、学校に電話をかけて「実家の都合で通えなくなったので今日のレッスンを含む全ての予約をキャンセルし、退校する」と嘘の理由をでっちあげてトレーニングを受けるのをやめました。しばらくはカラオケに行くこともありませんでした。

「肩の力を抜いて音楽を楽しむ」という教えは数か月かけてジワジワと効いてきて、楽しく自分らしく、かつ、以前よりも上手く歌えるようになりました。

「四六時中音楽の話をしている」というのを、ここ数か月の四六時中、私がSIRENシリーズのことばかり考えていることに気づいたことをきっかけに思い出して、この記事を書きました。

以上です。


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