長い髪を思いきり切って露わになったわたしのうなじにキスをしてくれたこいびと

髪の毛を切った。
高校2年生だった4年前にボブにした以来の短い髪だ。

気分転換とかそういうのではない。
出来れば30前後くらいまではロングの女の子でいたかった。
去年の春から冬にかけ、ブリーチにブリーチを重ね、ずっとかなり明るい色だったわたしの髪の毛は、2月の試験に向け黒染めをした1月に寿命を迎えた。
と言えば大袈裟だがつまり傷みに傷んで使い古したほうきのような髪の毛になってしまった。

3月 いつも通っている美容院に行った際、担当のお兄さんがホームケア用のトリートメント剤をいつもの3倍サービスしてくれたのだが、
それでもわたしのボロほうきと化した髪の毛は一向に生き返る気配もなく、切ってしまう他無かった。


わたしの担当の美容師さんは凄い。
短い髪が似合わないと嘆き続けていたわたしをスキップで帰らせたのだ。(盛った)
超絶可愛い切りっぱなしボブをわたしに似合うように見事に施術してくれた。


結ってもいないのにうなじのあたりがスースーする、今までにない感覚がわたしをまた楽しくさせた。

街を歩いていて反射するところを見ると、形が広がっているギャルソンのワンピースとよく合っていて シルエットがとんでもなく可愛いのだ。


わたしを見て第一声が「かわいいやん!」だった恋人、その後も十時間ほどずっと かわいいね、と言い続けてくれた。
恋人がわたしを全肯定してくれるスタイルは、彼の愛の形なんだろうなと思う。自己肯定感がかなり低いわたしはそんな恋人や母親、友だちにとっても救われている。生かされているとまで思う。


いま可愛らしい大きめの寝息(いびき)を立てて眠っている恋人の横で、母からのラインを読んでいると、
aikoの「瞳」の歌詞を思い出した。
母親の子どもに対する愛のうただ。


健やかに育ったあなたの真っ白なうなじに
いつぞや誰かがキスをする
胸を体を引き裂くような別れの日も
いつかは必ず訪れる
そんな時にもきっとあたしがあなたのそばにいる


あぐらの中にわたしを入れて抱き締めているとき、不意にうなじに優しくキスをしてくれた恋人。
くすぐったいとわたしは笑った。


音楽番組でaikoがうたうこの歌詞に涙を流していた母の姿が蘇る。
「"あなたのうなじにいつぞや誰かがキスをする"。どうして子どもがいないのにaikoはこんな素敵な歌詞を書けるんだろう」と、静かに泣きながらこぼしていた。



恋人からもらった愛で、親の愛を感じるなんて。


母からのラインは帰ってきなさいという内容だ。



ちゃんと帰ろう。


帰らないと。



1ヶ月も経っていない付き合いたてのアツアツ期間。愛しい恋人とのかなりツラい「またね、」を済ませて家に帰ろう。
帰ったらaikoの、今度は、恋人へのうたを聴こう。



なんて、隣でわたしが文章をずらずらと綴っていることなんて知る由もなく、未だに可愛らしい寝息(いびき)を立てている恋人に目を細めてしまう。


ここは世界でいちばん平和な場所だ。

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