こいびとはひかりがきらい


三月の終わり頃、恋人と四分咲きの夜桜を観に行った。

例年は人がいっぱいの大きな公園だが、このご時世と、時間帯が深夜というのもあって誰もいなかった。
巷では色んなイベントが中止になっているが花見も催物に括られるのだろう、ライトアップはされていなかった。

もちろん大きな公園なので至るところに電灯があり、そこで優しく光っている桜に駆け寄って写真を撮った。

恋人は全く写真を撮らない人だけれど、
わたしは恋人の、写真ではなくちゃんと肉眼で対象を記憶するところは割と好きだ。
なにかと形として遺したくなってしまうわたしとは違う。


その帰り、わたしたちとしては珍しく少し歩いた。


恋人は外が嫌いなので普段はすぐにタクシーを拾ってしまう。
彼の職業柄、人目につく場所でわたしと二人で歩いているとまずいのもある。
基本的にデートは家。
デートと言ってもごろごろしているだけ。
お互いがスマホを触っているときは
自然と不思議な体勢で恋人繋ぎをしている。

わたしはアウトドアとかインドアとかに
特別自分を括っていないけれど、
いつだって彼の温度を、肌を感じられるこの生活に満足しているつもりだ。

歩きながら話をしていて、とあることにわたしがプンプンしていると、彼は「おこんないで〜」と笑いながら手を絡めて恋人繋ぎをしてくれた。

辺りにもちろん人はいない。
一瞬かたまってしまった。そしてすぐに見上げた。表情は一転して満面の笑みで見上げているわたしを見て彼は「なに〜」と笑った。

外で手を繋いでくれたのは初めてだね。


「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」というドラマがあったが、
恋人との尊い断片を思い出すと
いつか、(来て欲しくはないけれど)終わりが来た時、わたしはあの瞬間を思い出して絶対に泣くんだろうなとおもう。


心が跳ね上がっているわたしはぶんぶんと握っている手を振り回してそのこころを体現した。
彼も一緒にぶんぶんとしてくれてわたしが力を抜いてもふたりの手はぶんぶんしていた。

冷えた風が静かな夜中を撫でているなか、確かにわたしたちの幸せのぬくもりは二人の掌の中で灯っていたはずだ。



例によって彼は外が嫌いだが、明るい場所が嫌いというのもある。家でうっかりカーテンを開けたまま朝やお昼に目覚めると、「あかる〜い」と苦しそうな顔をする。最初わたしは「ドラキュラみたいだね」とわらった。わたしを駅まで送ってくれるときはあの真白な光に対しても「あかる〜い」と死にそうな顔をする。ドラキュラみたいに。(ドラキュラを見たことはないんだけど)



先週会ったときのこと
快晴の夜空、見上げた月がきれいで、彼の仕事場で仕事終わりを待ちながら彼に教えたのだが、家についた頃「あ、月見てない。月見たい」と言ってくれたのがうれしかった。
後から知ったがその日の月はスーパームーンで特別輝いていたのだが、結局一緒には見られなかった。


あなたと一緒にいるときの、あのやさしい暗がりがとても好き
明るい場所よりも捉えられるあなたという輪郭、きっと同じように見えているあなたもわたしの輪郭をなぞるように頬を撫でてくれる。


でも、桜だとか月だとかはあまりにベタだけれど、
わたしはもっとあなたに、いろんな光をみて欲しいんだ。
ひかりって、時々かなしくて、優しくて、すごくきれいで、あったかい光もつめたい光も全部集めてぎゅっとしたくなるの。そしてそれを全部ばら撒いたら、きっともっと光ってきれいなの。


夏がくる前に、春の風が残っているうちに、海をお散歩したいな、あなたと

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