【連載】食べ合わせの幸福論Vol.3 しょっつるかけごはん
黒猫くんが来てくれません。
本を読んで急いで原稿を書かなくちゃいけない。〆切は明日。届くまで、外出は許されません。なんで? 12時にきたときにチャイムに気がつかなかったんだろう? 起きていたはずなのに。不在届けを見ながら、再配達受付連絡先に電話をします。
でも、お腹はすいています。13時。冷蔵庫を開けてみてもなんにもありません。なあんにもないのです。冷凍のごはんと、みょうがはあった。
なあんにもないとき、伊藤理佐の『おい、ピータン!!!』に出てくるしょっつるかけごはん。この組み合わせの、理想からマイナスしないと。現状を把握。ああ、そうだと、冷蔵庫を空ける。そこに鎮座ましますのは、あなたが好き。きっと言える。どんな場所で出合ったとしても。
というわけです。恋に落ちるのはタイミングでしかありません。
最低限の緊急飯なら、ごはんと全卵。でも、それじゃあなくって。凍ったごはん、レンジに1分20秒。に、冷たい、しらす。ドバッとかけた、ナンプラーに、ごま油。ほんとうなら、紫蘇と、ネギと、胡麻。白身も要らない。そもそも、しょっつるが、ない。引っ越し先のここ近辺には、ちょうどいいあの、しょっつるが売っていないのだ。たまごかけごはん専用の小壜。少しだけ、味の素をふりかけてもいい。魔法の粉みたいに。
小分けにした冷凍の、しらす。レンジでチンした、もう、いまはチンなんていわないけれど、あつあつになりすぎたごはんにふりかける。まんなかに箸を差し込んで、そこに、じゅうぶんに混ぜ合わせた全卵を投入。少し、火が通る。酸化なんかしてません。わけ知り顔の高級なごま油をたらり。しらすは少し、しゃりしゃりしているほうがかわゆいのだ。ひと粒ひと粒が勝手している。ひとまとめにしないで、個のままの米の箸にのせ、かきこむ。
でも、こうやって、台所で立ち食いするなら、これだけでいいのだ。白身を分ける手間ひまなんていらない。鼻水みたいにすすった白身もおいしいと思ってしまうのでした。だからいつも、最高の味は試していない。
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