【連載】食べ合わせの幸福論Vol.8 4枚切りの厚切りトーストとホットケーキのシロップ入り牛乳

 高校生のとき、喫茶店でバイトしていた。学校から帰って、10分だけ仮眠して、目の前のバスに乗ると、25分後にはバイト先の近くのアイススケートリンクに着く。そこは、愛知県では有名なスケーターたちが練習するリンクだったらしいが、そのときは何も知らなかった。土日学校がないときは朝からバイトしていた。お金をためて、ライブに行きたい。好きなCDや本が欲しい。純粋な購買欲を満たすために。

 ネズミの糞尿のにおいがするバックヤードにMDウォークマンが入ったバッグを置くと、するするとあがってくるエレベーター。いま、調べたら小荷物専用昇降機というらしい、それ。中には右のはしっこに、ホットケーキのシロップが入った銀のミルク入れがいつもあった。

 わたしがバイトで寝ぼけまなこでぼんやりしながら、届けられたトーストに付属のバターもどきをべっちゃりと塗って、いちごジャムをレンガ職人のように、生真面目に塗るのだ。ミルクはストロー。ストローの紙、遊ぶのは誰かと一緒にいるときだけだ。芋虫にして、水をふきかけ、しゃくとりする遊びを見るのが好きだった。

 細いストローを吸い上げられる白色は冷たい。ここに、ホットケーキのシロップを投入。混ぜないで、甘すぎる味と淡白な味を交互に楽しんで、ふたつの混合したハーモニーを想像力で補う。甘い、思ったよりも水っぽいな牛乳。もさもさと食べた。あの小窓から漏れる、朝日と、モーニングにおしよせる名古屋のお客たちの無遠慮でシステマティックな攻防。コーヒーには4枚切り厚切りトーストとゆでたまごが付くのが常識。四角くなった結晶の塩と玉子の殻の形状と食感は同じ。ざらざらと、舌の上でいつまでも留まる。

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