焼かれるおんな〔連想力・直感力の著しいかた、情景が生々しくリアルに浮かびすぎるかたにはお勧めできません〕

まるで焼却炉だと、私は思った。
でもあのゴウツクバリのババアが焼かれるんだから、こんな程度の場所でいいのよ。
こどもっぽい、きかん気の息子を押しつけられて二十年、その死後今度はあんたを看させられて十二年。
焼却炉ででも焼いてやらなきゃ私の憎しみはおさまらない。

精進落としのビールをやりながら、私の頬はもう半ば、だらしなく緩んでいたりもする。
その間も『彼女』は順調に、程よく焼かれてゆくのだが、誰が思ったろう、ひと筋の、淡い煙が残るとは。
火葬用の炉の煙突から、それはたなびき降りてきて、いつしか私に吸い込まれ、私は『彼女』と合一し、次の瞬間発火して、私は身内から焼かれ始めた。

クソババア!
こうまでして!

グズグズと、崩れゆく私の肉の、端っこゆえに焼け残ったちっぽけな耳朶。
そこにあの女の哄笑が響き続ける。
それが私の最後の記憶となった・・・




#30年前の四百字小説
#テーマは・煙・でした


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それでも地球は回っている