7時40分の男・ネクタイ編

あたしにはひそかに

7時40分の男

と呼んでる男がいる。
風采の上がらない、ふつうの中年男なのだけど、ネクタイがすごいのだ。
宇宙戦艦トヤマ、機動不戦士ダンガム、マリンガーX、等々、往年のオタクの人が、泣いて喜びそうな図柄ばかり。
なのにパッと見にはわからないデザイン性。
クレープクレープとか、ハレーキディとかの、女児ものも迷わず身につける。
何種類持ってるんだろ。
ひょっとして、365本とか…
まさかまさかまさか。

ある日の朝、道で見かけた。
今ここで17分。
だから駅で40分なのね。
でも今日はトヤマだ。
ついに過去かぶりか…
と思ったら、

『パパ殿。お待ちを』

小さい何かが追っかけてきた。
手には(手?)ネクタイを持っている。

『今日の取引先様は、鋼鉄ジーンのファンだと伺っております。ので』

手早くネクタイを結び直した!

『行ってらっしゃいませ』

手足の生えた携帯電話。
スマホじゃない。
携帯電話だ!

「サード、ありがとな」

手を振って去るおじさまの、ちっちゃな秘密に遭遇したあたしは茫然立ち尽くし、電車一本乗り逃がしたのだった。

それでも地球は回っている