フレズノ裕てんまつ①

※ かつて、漫画原作用に書き下ろしたものです。確か二次で落ちた記憶ww


○夏空
 眩しいほどの青空、響く蝉時雨。
 伝わってくるのは中学校の日常の喧騒。
 そう、ここは峰谷中学校の上空。

○峰中・一階窓際
 女生徒たちが何人も窓辺に群れている。
 どの子もみんな目がハート。
 女生徒Aが加わって、
A「裕さまいる?どこ?お目覚め?」
B「なわけないじゃん。ほら、いつもの木の下…」

○同・校庭
 女生徒Bに指差された方向には、広く枝を張った校庭木。
 根元に広がる日陰の芝生で、『裕さま』こと、舞浜裕(14才)はお昼寝中。
 その、あまりの美しさ…
 すらりと伸びた手足。
 さらさらの、亜麻色の髪。
 影を落とすほど長い睫毛。
 etc.etc.
 もう、典型的に美しい、やおいだの腐だのだったらヤられる側確定、みたいな…
 女の子たちが見とれるのも頷ける、が。
「危なあいっ」
 バスケットボール部員・青海(14才)の声が鋭く飛ぶのと殆ど同時に、飛んでくるボール。
 直撃である。
裕「てっ。ンだよー」
 直撃の痛みと怒りを抱え、半身起こしてボールを見る。
 向こうから青海が駆けてくる。
青海「わりいわりい」
裕「わりいで済んだらけーさつは、いらねーんだよっ」
 言いながら投げたボールは遠く飛び…
 青海の頭上はるかに飛んで、いきなりガサッとネットを揺らした!
 超ロングシュートが入った形だ。
青海「すげっ」
 呟いたのは青海だが、彼も含めて、部員全部が立ち尽くしている、最初に動いたのはキャプテン木場(14才)だ。
 青海のところまで一気に駆けてきて、
木場「いっ、今投げたのは君ですかっ」
 裕は黙って答えない。
木場「僕は今、君のシュートに光輝く才能を見ました! 君はうちの部に絶対必要だ! 走りましょう! もうすぐ試合もありますし、僕たちと、二度とない青春を燃やし尽くそうではありませんか!」
 力のこもった勧誘セリフだったが、裕は黙殺、立ち去ろうとする。
木場「(茫然と)伝わらない…僕の熱意が伝わらない…。伝わらないいっ」
 頭を抱える木場に、
青海「無理無理。舞浜裕に熱く語ってもずえったい無理」
木場「あおみん…」
青海「だからやつには」
 と利き手を少し上げ、後輩からボールを一つ受け取った。
青海「実力行使あるのみ」
 見事なドリブルで進み、裕の行く手を遮る。
裕「!」
青海「(ドリブルのまま)シュートはまぐれでもできるからな。でも、抜くのは無理だ」
 言い切った青海の目がきらりと光ると対する裕の目もまた、きらりと光った!
青海「!」
 目にも止まらぬ動きで青海のドリブルをカットし、ゴールポストをカット目指してゆく。
青海「全員で止めろ!」
 裕の行く手をわっと遮る部員たち。
 そして片っ端から抜きにかかる裕。
 一人、二人、三人、四人、右から左から、上から下から、見事なボールハンドリングと身体制御で、『誰一人にも自分に触れさせることなく』ゴール下に到達、殆ど垂直に二メートル跳んで、リングにボールを叩き込む!
部員たち「!」
 全員が息をのみ、全員が立ち尽くす。
 だが裕もまた、着地の姿勢のまま硬 直、自分の体内を駆け巡る、熱い血潮を感じているふうだ。
青海「だろ? おまえまだバスケ好きなんだよ。軟派気取っててもさ」
裕「…」
 黙ったまま、まだ感覚を味わい続ける裕だが、
裕「るせえ」
 小さく悪態をつき、行ってしまう。
青海「(見送り)…」

○空(夜)

○裕宅(夜)
 小綺麗な二階家である。

○同・裕室(夜)
 シャワーを浴びている裕。
 ややあって、出てきて、自分のベッドにドンと横たわる。
 タオルを使いながらも目線は宙をさまよい、ともすれば視線は壁の、一枚の、大きく伸ばしたデジタル写真に行く。
 そこには少し幼い裕。
 とてもいい表情で、ボールを手に、今シュートの体勢に移ろうとしている。
 ミニバスケットの試合らしい。
裕「…」

○青海宅(夜)
 少し古い、下町風の木造二階家である。
 固定電話が鳴っている。

○同・自室(夜)
 木枠のガラス障子とは、かなり不釣り合いな、本格的なコンピューター端末が目につく。
 室内の飾り込みは、ポスターも含めて殆ど全部バスケットボール。
 よほどバスケが好きらしく今青海が開いているパソコン画面もバスケットボールの戦略である。
 「健太ー。電話ー」
 母親の声に目も上げず、
青海「こっちで取るー」
 と、パソコン脇の子機を取る。
青海「はい俺。お。おおー!」
 子機を肩で支えたまま、パソコンを叩き続ける青海。
青海「(画面七、電話三くらいの集中で会話、)それで?…そう…OK…そんじゃな」
 と電話を切る。
 ひとしきりキーを打ってから、
青海「よっしゃ!」
 めちゃめちゃ嬉しい表情の青海である。

○峰中・校庭
 各運動部の活動にまじってバスケ部も練習に熱中している。
 そしてその中に裕。
 ディフェンスを軽々とかわしている。
 見守る木場、青海。
 コートサイドのベンチにいる。
 二人ともめちゃめちゃ嬉しい。
青海「ミニバス時代は『神風』って呼ばれてた。風みてえに速いんだ。ボール渡ってシュートまで、二秒そこらでこなしちまう。怖いやつだった」
木場「仲間じゃなかったんですか」
青海「敵。やつひとりのおかげで、うちのチームは万年二位。それだけに…味方にしたらこれほど頼れるやつはいないってコト」
木場「(すごく嬉しい)ですねっ!」
 嬉しい目線をそのまま部員らに向ける。
木場「そこまでー! インターバルとります」
 みんながその場にへたり込む中、裕だけが涼しい顔で、青海たちのところまで戻ってくる。
青海「バテねーな。ブランク全然ないみたいじゃん」
裕「前ほどじゃない」
 と汗を拭う。
 そんな裕を惚れ惚れ見ている木場。
 参加してくれたのが嬉しくてならないのだ。
 裕、気づいて見返し、
裕「俺、ガードでいい?」
木場「いいも何も! 君がやりたい通りでいいです! よろしくお願いするです!」
 と、ちょっとおかしな日本語になりながら、裕の手を取って大きく上下に振ろうとする、単純に言えば『むりやり握手』をしようとするのだが、裕は木場の手を、明らかに回避した…
木場「あれ?」
裕「(青海に、)マンツーマンやる?」
青海「オッケ。そんじゃキャップちょい行ってきやす」
木場「え、ええ…」
 コートに入る裕と青海。
 裕がボールをキープし、青海が追って狙う(が奪えない。何度やっても奪えない)。
 ちょっと楽しそうな裕の顔。
 素晴らしい攻防が続くが、木場はさっきかわされた、己の手のひらを見ている。

○峰中内・日常風景
 授業中、体育中、理科実験中、教室移動中等々、様々な、男女生徒のシーンにかぶって女生徒A・B・C・Dの声。
女生徒Aの声(OFFで)「ねえねえホントなの? 裕さまバスケ始めたって」
女生徒Bの声(OFFで)「ホントも何もあれ以来、毎日毎日バスケばっか」
女生徒Cの声(OFFで)「えー。見たあい裕さまのプレー~。試合とかないの?」
女生徒Bの声(OFFで)「あるよー。今度の日曜日。ところは県の体育館」
女生徒Aの声(OFFで)「やったあ! 応援行こう!」
女生徒Bの声(OFFで)「ただァ…」
女生徒A、С、Dの声(OFFで)「ただァ…?」
女生徒Bの声(OFFで)「部員とご家族とチア以外、応援禁止だって」
女生徒A、С、Dの声(OFFで)「えーっ!!!」
 この「えーっ!!!」に、次のシーンの「えーっ!?」がWって…

○県体育館・全景
 ~に轟く係員の声。
係員の声「えーっ!?」

○驚く係員の顔
係員「あなたたち…みんな…ほんとに…」
 「チアでーす!」
 と、声をそろえる膨大な数のチアガール。
 美醜太細高低、多種多様にすぎる彼女らのうち、本物らしいのは十人程度。
 チアリーダーが困った笑顔で説明する。
チアリーダー「膨大な数の新入部員が入って来てしまって…」
 カメラ引くと、そこは県体育館内・自校応援席。
 真贋チアガールであふれかえっている応援席を、呆れて見ている峰中バスケットボール部員たち。
 もちろん裕、青海、木場もいる。
木場「こうなると思ったから応援禁止にしといたのに…」
裕「(青海に)いつもこんななのか」
青海「(むっとした目を裕に向ける)…」
木場「きみのギャラリーですよ。全部」
裕「?」
 いまいちわかっていない裕である。
「よおっす」
 と近づいてきたのは今岡正。
 対戦相手、引野中のキャプテンである。
今岡「それか? 美形の新兵器ってのは」
青海「今回こそは勝たせて貰うぜ」
今岡「どーだかな。ま、お手並み拝見」
 冷やかし半分で今岡が、裕の前髪をファサっと払う、つもりだったが、裕が避けたので、その手は空振りに終わった。
 木場は見るともなく、そのやりとりを見ている。
 審判がコートに出てきて、
審判「準備はいいですか?」
        ※
 審判、笛を噴き、ゲームが始まる。
 だが、先発五人の中に裕がいない。
 応援席から湧くざわめき。
女生徒Aの声「裕さまは?」
女生徒Bの声「出てないじゃん」
女生徒Cの声「どーしてえ?」
 裕はベンチのほぼ中央、木場の隣に腰掛けており、青海はコート、ポジションはガード。
 けっこういい動きをしており、幾度もシュートチャンスを作ったり、自分でシュートしたりしている。
木場「(裕に)先発がよかったですか」
裕「や。やつもめちゃいいプレーヤーだから」
木場「僕もそう思います。『当たられ強いとこ』とか、『押し負けないとこ』とか特にね」
裕「…(言外の意味を図りかねる)」
木場「(気づかぬ素振りで)いいリードマンですよねー」
 とことさらに、裕に寄り添うようにして同意を促す。
 少し横様にずれようとする裕だが、ベンチ中央辺のため、無理にずれれば逆横の選手に触れてしまう、それをも拒みたい裕の動きはひどくぎこちなく、ついには立ち上がってベンチ後方へ出てしまう。
裕「(ウォーミング)アップしとく」
木場「どぞ」
 もちろん木場は、裕の動きのぎこちなさをもろに認識している。
         ※
 裕がベンチ脇に出たので、応援席がわっと湧く。
 「裕ーっ」
 「裕さまあっ」
 「素敵ーっ」
 コートの中の青海がぽつり、
青海「まだ何もしてねーじゃん」
 ボールハンドリング中の青海、チームメイトにおや指、人差し指、中指の三本立てて示しつつ、
青海「フォーメーション3!」
 釣り出されて今岡が出てくる。
今岡「隙だらけだぜ?」
青海「でもねーよ」
 振り切って青海が走り出す。
 一人抜き二人抜き三人まで抜いたが、デカ物のセンターに阻まれる。
青海「!」
 笛!
 無理阻止だったのは明白。
 審判の笛で青海、フリースロー。
 継続する試合を見ながら、木場が誰にともなく呟く。
木場「マークきてますね。この辺で引き離しときましょうか。舞浜君」
 ボール回ししていた裕が、軽くボールを上げて応じた…  
             
       
             2へ続く

それでも地球は回っている