ピンチ〔けん🍀✨さんに捧げます〕

室内になく、ベランダにもなかった。
いつも置いてあるところにももちろんない。
どうしよう、どうしよう。

大丈夫よ、なくたって。

お隣の奥さんの声が甘い。
大丈夫、かな・・・


飛んだ、何もかも。
夫のお気にの白ポロも。
拾ってもっかい洗ったけど、もとの白には戻らない。
ああもう夫帰ってくる。
どうしよう、どうしよう、どうしよう!!!!!


でもって奥さん飛んだのね。

あたり血の海。
迷惑な話。
この辺の地価も下がっちゃった。


それこそピンチじゃん。

まさにそれ。

言いながら久美、洗濯物を留める手止めない。
ピンチ。
大小使い分ける。
日本では基本、洗濯ばさみっていう・・・

ピンチって呼んでるのも不愉快だったわ。

久美は言いながら干し物続ける。

あるじゃないピンチ

どこからともなく聞こえる声に、あたしはふっと振り返る。
生前のままの気弱感満載で、『彼女』がそこに立っていた。
指差してるのは久美んちのピンチ籠。
山盛りの洗濯ばさみが入ってる。

あるじゃない

一歩前に出る『彼女』から逃れたくて、あたし思わずベランダへまろび出た。
勢いついててあたしの躰、落下防止の手すり越えた!

買えばいいじゃん
百均とかにもあるのに!

みるみる接近する大地。
あたしもきっと助からない。
上みると、ああ、久美があたしを見下ろしてた。
激突の瞬間を待ってるのだ。
ぎらぎらしたまなざし。
間違いない。
待ってるのだ。

それでも地球は回っている