『倉 後段』③〔R18有料作〕
三
一族郎党の大ブーイングを浴びながら、麟はうちへ引き取られてきた。
拡(ひろむ)翁の遺産の管理権ごと。
金も資産も俺はいらない。
麟だって同じだ。
でも管理権を放棄したら、あのケダモノみたいなやつらのこと、好き放題に処分して、麟が成人する頃には、何もかもなくなってるかもしれないじゃないか。
親父が会社を立て直す資金のみ、一時資産から借用し、三年でそれも返した。
(返させた。親父はあの一件以来俺に全く頭が上がらなくなってたから。)
それでも親戚じゅうが言っている。
天野は金目当てに、麟様をたぶらかしたのだと。
天野の家に麟様を預けるのはいいが、籍は移してはいけない。
あくまで世話をさせるだけだ…
好きに言ってろ。
てめえらはいつも麟の心はそっちのけだ。
誰一人、麟にありふれた、少年時代を与えてやろうなんて思ってない。
唯一の救いはお袋だった。
彼女は麟の背中にはりついている資産のためでなく、麟という、普通の八才の少年が、普通に成長してゆくための、時間と場所を用意してくれた。
叱られ、誉められ、勘違いされ、過大評価され過小評価され、時には無視さえされる。
ごくふつうの母親にすぎない彼女だからこそ、麟はわだかまりなく飛び込んで行けたのだと思う。
春は桜を、夏は海を、秋は紅葉を、月を、冬は雪を、やつは当たり前の子どもの感性で楽しんだ。
中学を出る頃、ちょっと内向的になったけど、誰もが通る思春期の変化だ。
麟はもう、目覚め際に、びくっと怯えることはなくなっていた。
ただただ底なしに美しい、でもごく普通の十六才だ。
好きな女の子を作らないのは気になったが、まだ十六だ、慌てることはない。
(俺自身十八の後半まで童貞だったのだ。弟に先を越されてたまるもんかである。)
麟と過ごした十年間に、俺は大学に進み、卒業し、教師になって母校に戻った。
そう、水原学園は俺の母校だったのだ。
高等部でも良かったのだが、さすがに学校生活の細部まで俺の目が届いたら、麟も顰蹙だろうと中等部にした。
なんてバカな選択をしたことか。
目の届くところに置いていたら、あんな最期を迎えさせはしなかった。
いつからだ。
いつからうちの学校に、男色の不良なんか現れた?
それでも地球は回っている