ほんとうさぎのはなし〔改訂版〕

よなかにめがさめると
ぼくはなきたくなります
ほんとうさぎは
もういません
ぼくにあのひ
もっとちからがあったら・・・

はじめてであったひ、ぼくはおなかがすいてすいてないてました。
いいおくれましたがぼくはにんぎょうです。
え、にんぎょうもおなかがすくの？
すくんですよ。
もちろん、なまのたべものはたべません。
あいしてくれるひとのきもちがごちそうなんですが、ぼくのもちぬしだったりょうたさんはもういません。
りょうたさんにあいされすぎてたぼくは、

りょうたをおもいだすからいや

とままさんにいわれて、おしいれのすみに、ずっとわすれさられていたのです。
そんなあるばんあらわれたのが、ほんとうさぎでした。

ころころと、ひきぐるまに、いろんなドーナツをのせて、ほんとうさぎはあらわれました。

さみしいこころには
あかドーナツ
しっとのこころは
きドーナツ
こころをしずめ
おなかをしずめ
やさしいきもちになりましょう

うたうようにいいながらあらわれたのです。
だれかがあらわれてくれた。
もうそれだけで、ぼくのこころはみたされました。

どれがいいですか？

きかれても、ぼくはくびをよこにふるばかり。
きもちはもうただありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう・・・

きこえてますよ。
こころのこえ。
かんしゃしかないなんて、めちゃめちゃきれいなこころだ。
そんなあなたをぼくは、あそこにつれていきましょう。

ほんとうさぎがそういったしゅんかん。

ほとんどしゅんじにぼくはそこにいました。
いちめんのあかいばら。
ばらのはなぞの。
あまいかおりがたちこめて、あたまがくらくらになりました。

ゆっくりと、ちょっとずつすいこむんですよ。
すてきなものは、すこしでいいんだ。
はいのなかがみちるくらい。
まあぼくも、あなたも、はいなんてぞうきはないんですけどね。

なるほど。
そんなものなのか。

なっとくしかけたそのとき。

いちだんの、スーツすがたののうさぎたちがあらわれたのです。

そいつからはなれなさい！
そいつはほんとうさぎじゃない！

うさぎたちはそろってまえほうこうにみみをふります。
するとみみたちのひとつひとつからえもいわれぬひかりがまいちります。
まいちるひかりがあたったとたん、ばらのはなぞのはかききえ、そのばはみじかいくさがちょろちょろはえてるだけの、どこまでもなにもないのっぱらになってしまったのです。
うさぎたちはそろったうごきでぼくごしに、ほんとうさぎをつよくゆびさしました。

そいつはほんとうさぎじゃない。
ほんとうさぎににせてはいるが、まったくべつもの。
そいつは

ほんとう　さぎ　

なのだ！

ちがいます！
ちがいます！
ぼくはほんとのほんとうさぎです！

ぽろぽろなみだをこぼしています。

ほんとうだっていってます。

おそるおそるぎもんをなげると、

わたしたちはまちがわない。
そこをどけ。

おおにんずうでえらそうです。
ぼくはなんだかむかっときて、りょうてをひろげてたちふさがりました。

ちがうっていってます！
ぼくはこのこをしんじます！

するとぜんいんのうさぎが、くちのはしをあげてわらったのです。

あはははは。
あはははは。
あはははははは。
あはははは。

つめたいわらいごえってぞっとする。
それでもぼくはそのままたちふさがっていました。

ほんとうさぎさん。
にげて！

するとせなかから、とてもとてもちいさなこえで、

ありがとう

ときこえて。
ふりむくと、いままさに、ほんとうさぎがさっきのみみふりひかりにのみつくされていくところでした。

ぼくはあわててうさぎたちをみましたが、そこにはもう、わらううさぎたちはいちわもいなかったのです。

ほんとうさぎはもういません。
ぼくにあのひ、もっとちからがあったらと、いまもつよくおもいます。
あのよくじつ、ぼくはろくねんぶりにおしいれをだされ、りょうたくんのしりあいらしいこども、あいかわりなちゃんにもらわれてゆきました。
りなちゃんが、おふとんとまくらをくれました。
りなちゃんのてづくりだそうです。
おとうさんとおかあさんに、

そんなふるいにんぎょうでいいの？

と、なんどもきかれたりなちゃんですが、

このこがいいの。

このこ、ばらの、こうすいのにおいがするのよ。

そういって、ぼくをぎゅううってだいてくれたのでした。
ばらのかおりはそう、ほんとうさぎがぼくにさずけてくれたもの。
ほんとうさぎのおかげでぼくは、あたらしいもちぬしをさずかったのです。

ほんとうさぎはもうあらわれないのでしょうか。
ほんとうさぎがほんとうさぎでなく、

ほんとう　さぎ　

だったとしても、ぼくにとってはほんとうさぎです。
でもどうじにかんがえます。
あのとき、あのこのひきぐるまにのっていた、なないろのドーナツぼくがひとつでもうけとっていたら・・・

ぼくははたしてどうなっていたのでしょうか？