KUNIBIKI②〔応募作ですので、noteさん、妙な但し書きは絶対置かないでください〕↑全然わかってない。出されてる!(あ。消してくれた。ありがとうございます)と思ったらやっぱり消してくれてないのだった⤵どよーん…

KUNIBIKI②

 突然本格と言い出したメサに、アタシはちょっぴり違和感を覚えた。
 それが何かはわからなかったけど、アタシは自分が違和感を感じる時の、特別な感触を信じていたから、早速あれこれ調べ始めた。

 メサを調べるにはまず、祖国のファルルフを知らなければならない。
 調べてみるとその国は、隣国ファヌ・ン・レと、交互に災害を受けていた。
 地震、暴風、洪水、津波、干魃、そして飢餓。
 これでもかというほど起きている。
 まさしく災害のオンパレード。
 だがここ数年、災害は圧倒的にファルルフに偏っており、ファヌ・ン・レの繁栄と対照的に、ファルルフは衰退の一途を辿っていた。
 そしてもう一つ、メサについてのアンダーグラウンドな情報が、裏の世界から上がってきた。
 メサは食いつめた、貧乏人の小倅ではなかった。
 ファルルフの、没落した神官一族の庶子か、王族の第十一王子。
(どっちだ?)
 どっちにしても食いつめて、日本くんだりにまで相撲修業に来る立場ではない…

 秋の興業で、早くもメサはデビューした。
 四股名は瑪沙。
 音通りだ。
 とても小さいのにすばしこく、大柄な力士たちをきりきり舞いさせる。
 人気が出た。
 ちょっとした瑪沙ブーム。
 うちは早くからかかわっていた分、士幌山部屋の覚えめでたく、クリスマスを前に、瑪沙の写真集を刊行出来ることになった。
 年末年始の印刷休業に引っかからないように社員総出で校了日程が組まれ、全社一丸となって作業してる時、カメラマンのボヤキが聞こえた。
「何で左から撮らせないんかな。左顔のがかわいいのに」
 アタシははっとなった。
 レポートや記事に写真つけるときも、そういえば全部右だった。
 タッチライターに窓を聞き声をかける。
「ファルルフ、左」
 『神聖。禁忌。左耳の後ろに神のみに見せる本当の姿が出るため。』
 !
 やはりメサには何かある。
 タッチライターで記事を漁る。
 瑪沙。
 左顔。
 ない。
 一件もヒットしない。
 そんなバカな。
 公共放送は全方位カメラだし、その辺のコドモだって瑪沙を撮る。
 何故写らない!
 しばらく茫然となったけど、気をとりなおして別の角度から攻める。
 同様の事例…
 一件ヒットした。
 やはり相撲。
 濡錦関は右顔像が…ない…
 濡錦。
 いつ来日した?
 どこから来た?
 モンゴルになってる。
 でも前から思ってた。
 モンゴルっぽくない…
 ヌレニシキ。
 ヌ・レ。
 ファヌ・ン・レ…

 突然タッチライターがロックした。
 向こう側から“見られ”た。
 画面が割れ状態となり、逃げ出す前に社内にホルダーが侵入してきた。
「レイコ・キシロ。拘束シマス。罪状・過剰アクセス」
 いきなりキューブに閉じ込められてしまった。
「何しでかした」
 デスクが禁煙パイプをめちゃめちゃ振り回す。
「何も! 相撲しか調べてませんっ」
「わかった。何も言うな。とりあえず完黙だ!」
 とりあえず完黙って…
 大昔の、反体制派ジャーナリズムじゃあるまいしっ!
 慌てふためくアタシ入りのキューブが護送車へと誘導される。
 せっかくのクリスマスを、監獄で過ごす羽目になるなんて。
 キューブの中で膨れっ面してたら、突然護送車が急停車した。
 事故?
 ではなかった。
 覆面の男たちが五人ばかし、護送車を襲ったのだ。
「キューブをこちらにっ!」
 きびきびした男の声の指示に従って、アタシのキューブが別の車~昔でいえばバンとか、ワンボックスカーとか呼ばれるタイプのそれだ~に積み込まれた。
 車が走り出す。
 これ何?
 どゆこと?
 アタシどうなるの?
 これでも一応記者だから、バカみたいに怯えてるわけにもいかず、さりとてタッチライターとは引き離されてしまってる。
 外部にアクセスする術がない。
 しょうがない。
 アタシは数を教え始めた。

 7383数えたところで突然車は止まった。
「そんなことしても、車ごとワープホール通られたらわからんだろう」
 声とともに扉が開いた。
 そこにいたのはアタシの前任者、ロシアに栄転したはずの、八木沢慎一郎だった。

 キューブカッターでキューブを切って貰い、アタシはやっと自由になった。
 けど執務官以外の人間にキューブを切って貰った以上、アタシもお咎めは受けることになる。
 キューブにいても犯罪者、出してもらっても犯罪者。
 アタシはどうすればよかったのだ?
 ムカムカしてる私の表情を、八木沢さんは面白そうに見ていた。
「どこまで知った」
「まだ何も。濡錦関に手をつけた途端にキューブ入りです」
「んー。半年にしちゃあいいとこまで来てる。少しは育ったな、ひよっこ」
 髪をくしゃっとやられた時、唐突に思い出した。
 アタシの社会人生活の、一発目の失恋相手だった…
 打ち明けた途端怒鳴られた。
 恋愛するためにブンヤになったのか!?
 今どき新聞記者をブンヤって言う人どこにいる?
 輪転機あった頃の話でしょうに…
 泣いて、泣いて、諦めて、ロシアで死んでろ! と思ったのに、あいかわらず長身の、童顔のままアタシの前にいる。
「ブラックだったよな」
 差し出されたコーヒー、熱くて、苦くて、もー、マジ涙出そう。
 でも…好きな味。
 この人に教え込まれたコーヒーの味…
 頭の中がすっきりしてくる。
 カフェイン中毒と言わば言え。
 こいつがなければ始まらないんだ。
 アタシは思い出を押しやり、現実に対応すべく身を乗り出した。
「何が禁アクだったんです?」
「KUNlBlΚI」
「国引き?」
「そ。KUNIBIKI」
「…」
 全く聞いたコトもない。
「そりゃあ聞いたことないだろう。それはこれが、世界全体を司るオオゴトだからさ」

 第二次世界大戦が終わった時、日本は実は分断される筈だった。
 既にアメリカとソ連(ソヴィエト連邦。現ロシア)が綱引きしてたからね。
 でも天皇がマッカーサーに会いに行った。
 そしたら分断の話が立ち消えた。
 どういうことかわかるかな?

「アメリカが、ロシアと分けっこしたくなくなる情報を、昭和天皇はかの国にもたらした…」

 その通り。
 天皇は国引きの秘密のー部を、マッカーサーに明かしたんだ。
 でなきゃ超大国アメリカが、どうして日本なんかと単独講和する?
 国引きの力について知ったマッカーサーは、日本を掌中に収めれば大統領も夢じゃないと考えた。
 まあ、時の大統領ルーズベルトはマッカーサーが嫌いだったし、日本もマッカーサーに全面支援して敗れたら、国そのものが危うくなる。
 ほど良いバランスで両者を操って、アメリカを常に自分の傍に引きつけておく努力をしてたからね。
 だからマッカーサー大統領は実現しなかった。
 それが日本流の世界戦略。
 KUNIBIKIは、日本古来のお家芸なんだよ。

「待って八木沢さん。その言い方だと、世界の動きを全部日本が仕切れることになる…」

 仕切れるよ。
 田中角栄が日本の総理になるまでは、少なくとも仕切れてた。
 佐藤栄作も岸信介も、KUNIBIKIの力をうまく小出しにして、世界とやりあってたからね。
 でも田中角栄が私利私欲と、国民への点数稼ぎのための外遊で、中国にもKUNIBIKIの秘密を明かしてしまったから、世界の流れを一国独占できなくなってしまったんだ。

 何かアタシ、わかってきた。
 国引きの意味も思い出した。
 日本黎明期の出雲で、出雲ちっちゃいなぁと思った神様が、周辺地域から余った土地~って決めつけて~引いてくる。
 出雲大きくしちゃうんだ。
 そう、KUNIBIKIは多分国引きを可能にするカ。
 そしてそれにつながる、呪術的な憑代(よりしろ)が関取。
 だから本格はなくならない。
 いや、なくせないのだ。

「じゃあメサと濡錦は」
「ファルルフとファヌ・ン・レの、存亡を賭けて戦ってる。ファルルフは世界の仕組みに気づくのが遅すぎた。濡錦が一勝するたびに、ファルルフの国力は低下していってる。メサはどんなことをしても、勝って押し返さなければならないんだ」
 国ひとつの運命が、あのちっこい体にかかってる。
 メサ…

 笑顔が思い浮かぶ。
『サダルフ、ティエリ』
 屈託のない愛らしい表情… 

 アタシは決意した。
「タッチライターある? 昔のパソコンとかでもいい」
「どこへ送る」
「ありとあらゆる場所に爆弾として送り込む。ワンプッシュで全世界拡散。誰もがKUNlBlΚIの真実を共有する世界が始まる」
 八木沢さんは片眉を上げた。
「そんなこと誰に出来る。タッチライターが電脳界網羅してから、システムは完全ブラックボックス化してる。どうやって侵入する」
「コネがあります。だから仕込みもアタシがする。それでいいですね?」
 まじめな顔で八木沢さんを見る。
 八木沢さんは深々頷いた。

それでも地球は回っている