あまりにも不幸な成り行き

新しいジャンダムは、なんとタウル・ルマーノー・メイセンに決まった。
タウル・ルマーノー・メイセン。
第一党シャウマーで、一番若くシンプルな考え方の派閥、“ケデ”の代表だ。

王家の未来は民に決めてもらいましょうよ。

メイセンは、国民投票をすると決めた。
12月15日。
投票が行われ、国民の八割が次代にルティ・エイレを望んでくれた。
残りの二割は悪鬼のようにどよめき、反論したが、八割の圧の前には全く歯が立たなかった。
それどころか、エリュクスの王の時代から、繰り返し行われてきた、私とルティへの執拗な罵倒記事、罵倒報道等についての厳しい内部告発が始まったのだ。


それはほとんど魔女狩りだった。
セーサラストゥリーヌの事件だけで十二人が処罰された。
レイショム先生を恣意的に配置換えしたことで、小学部長が。
わたしはおひめさまなんだよ事件での発言のすり替えで、雑誌社と父兄が。
給食をあがらないおひめさま事件で、毒と知らずに入れた上級生とその父兄が。
わたし給食で我慢する事件に関与した若い先生は訓告で済んだけれど、シュザー・ハインの親と、ベイロン・ケイの祖父母は刑事罰を受けた。
私とルティは罰を望まないと言い続けたが、メイセンと“ケデ”は容赦なかった。

マリュス陛下妃におかれましては慈愛のお気持ちが強すぎます。
私どもは源流を辿り、犯人たちが誰に忖度したのかまでも、追及し続ける所存です。

そんなことは望んでいない!!

私はマリュスに頼んで捜査の中断を願ったが、政治の人たちは全く手を緩めなかった。
ついにマリュスの弟君であるノリュスの妃、ナ・レイヌが、私の許を訪のうた。

お義姉さま!
お義姉さま!
どうか捜査をやめさせてください!
“ケデ”は黒幕が私だと言うのです!!

(間違いなくあなたでしょうに!!)

喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、状況を聞く。

“ケデ”は私とエリュスに忖度した人たちを、完全に、完璧に、一掃する気なのです!
それだけではない!
命も取るつもりなのです!!

命も取る…

それを聞かされて、じっとしていられる私たちではなかった。
マリュスと私は“ケデ”を訪ね、適当なところで幕を引いてほしいと必死で頼んだのだけれど、メイセンは首を縦に振ってはくれなかった。

王族は、政治や懲罰に、口を出してはいけない。
これがこの国のいにしえからのならいです。
それに手心を加えよと言うのなら、それはマリュス陛下、陛下妃様もまた、ノリュス様ご夫妻と同じく、自らの意思意見を恣意的に、社会に投影したということになります。
それでもよろしいのですか?

メイセンの瞳は強く輝く黒。
決意にあふれていた。
けれどこのままでは。
このままでは!




おのれええええ。
マーディト・ウェゼク!!
エヌレヌの姫めええええ!!!


叫ぶ声が、北塔からこだましてくる。
私は両の耳を覆う。
ナ・レイヌは、すべての罪を暴かれた。
どうしても、弟王子ノリュスの心を捉えたくて、蠱惑のたけを放ったこと。
次々子を成しては、我が夫や私を圧迫したこと。
特に私の最初の懐妊の妨害や、エリュスの“恣意的な作成”は、強く強く糾弾された。
男児が生まれてくるように、ナ・レイヌは受精卵を、繰り返し繰り返し調節し、選別し、捨て続けていたこと…
そしてそれは、エリュスが生まれてからも行われ続けていたというのだ。
もっと強い、もっと賢いエリュスが“出来”たら、こども自体を“取り替える”つもりだったのだ。


王族病院の人事が刷新された。
もう新しいエリュスがいじくり回されることはないが、かわいそうなのは誰よりも、エリュス・ノリンガフ・ゼエだった。
母親の犯罪事実なんかどうでもいい。
そんなものより正式に、出生の秘密を知ってしまったことのほうが数倍つらいだろう。
エリュスの苦しみは、そのまま私の苦しみだったし、それはルティも同じだった。

だから言ったのに!
モアナ様を私とエリュスで支えるんでよかったのに!

ルティは目を真っ赤に泣きはらしていた。

エリュス・ノリンガフ・ゼエ。
どうしてあげたら幸せにできるんだろう。

つぶやくように言った私に、ルティ・エイレは一つの提案をした。

おかあさま。
わたしにきょうだいをください。
エリュスをうちの、養子にいただきましょう。

ああ。
ルティ。
ルティ・エイレ。
何でそこまで寛容になれる。
あなたは毒を盛られ、馬鹿にされ、わがままいっぱいのご令嬢のように言われてきたのに。
でもあなたはシュザーやベイロンのことも疎外しなかった。
あなたの優しさは、マリュス陛下の寛容に続いている。

二児の父になりますか?

マリュスに問うと、わが夫は柔らかく笑んで、言った。


喜んで。


弟王子ノリュスは、断種された。
ティエとモアナは降嫁した。
作られた王子・エリュスには、もともと精子がなかったらしい。
王家はこの先も、直系だけで続いてゆく。


風の強い日には、北の塔の叫びが聞こえてくる。
ナ・レイヌは今なおも、私を憎んで生きている。


それでも地球は回っている