車種〔さちピコード作です〕

作業着で、誘導棒を振っている人がいる。
この霧では、ああいう人がいないと、片側一車線相互通行なんてできやしない。
ありがたいことだ。
来いと振られる誘導棒。
信頼とともに緩く踏み込むペダル。
車は徐行で進む。
だが横を過ぎたとき、誘導棒の人が口の端でふっと笑った気がした。
無事でね、という笑いではない気もした。
どういうことだと思ったとき、正面の高い位置に、強く光るライトが一対!
わーーーーーっとギアを入れ替えて急遽バック。
ものすごいスピードで。
幸い後続車はなく、停止位置まで戻り終わったのとほとんど同時に大型トラックが私の車のフェンダーをかすめて走り抜けていった。

てめえ!

きっと見やったそこに、誘導員の姿は影も形もなく、霧越しに、死亡事故現場という看板と、萎れた花束があるきりだった。


あとでそこで、霧の日に、交通誘導員が車に跳ねられたことを聞いたが、あの誘導員がそいつだったかは全くわからない。
ただそいつをはねた車は、私の車と同じ年式型式の同車種だったそうだ。


それでも地球は回っている