さーびす〔ぽてぃろんさんに捧げます。お待たせしました(^^;)〕

母ちゃん!母ちゃん!宝物が逃げるの!

子の声に振り向いた私は、もうすぐ子別れの我が子が、紅い石を両の前足で懸命に押さえているのを見た。
かるせどにーだかかーねりあんだかいう名前の朱色の石。
じそんじことかいうことがらの起きた道のところで、この子がみつけてきたものだ。
食べられないものに興味を持つおかしな子。
でもかわいい私の子。
私もかなり老いてきた。
次はきっともう宿らないだろう。
そう思うと胸痛む。
何でも叶えてやりたくなる。
紅い石がばらばらにならない方法は?
木苺なら、ねぐらのちょっと窪んだところに置くだけでどこへも逃げないが、この丸い石はすぐ転がる。
七つあったのにもう三つしか見当たらなくなっている。
明日にはなくなってしまうだろう・・・

ちょっとおいで

私は子を呼び寄せ、片前足を上げさせた。
私がそれにふっと息をかけると、
それは人間の手そっくりの外観になったのだった。

町の宝石屋さんに行って、こう言いなさい

この手首にはまるような、ブレスレットにしてちょうだい

母ちゃん、ぶれすれっとってなに?

母ちゃんもわからないけれど、なんか人間が手首に巻くものだよ。
手首ならおまえにもあるからね。
うまく頼んでつくってもらうんだよ。

幸いこの頃私は、横領犯の埋め隠した四百万円ほどの札束をもっていたので、二十枚ばかり子に持たせることができたのだった。

わかった
行ってくる

子は意気揚々とでかけていった。


この手首にはまるような、ぶれすれっとにしてちょうだい

この手首にはまるような、ぶれすれっとにしてちょうだい

忘れないように道道言う。
セリフは完璧だったけど、差し出す手を間違えた!

店主は目を、ぱちくりした。

この手首にはまるような、ぶれすれっとにしてちょうだい

と言っているのは子ぎつねだし、差し出された手はきつねの前足だ。

あ、いけない

と子ぎつね、側を変え、人間の手になった片前足を見せる。
カーネリアンを三粒と、紙幣を二十枚ほど握っていたが、どうせ紙幣は木の葉だろう。
紅い石には繋げる紐を通す穴もあり、店主は手早く革紐を編んで通した。
きつく結んだら血が止まってしまうだろう。
緩く結んだら抜け落ちてしまう。
ほんとは首にかけてやりたいんだがなあと思いながら、適度な窄まり具合に結んだ。

これでいいかい

と問うと、

うん!

と元気な返事があった。

その革紐はサービスだ
気をつけて山へお帰り

と言うと、子ぎつね、なんの迷いもなく、

ありがとう!

と全身見せて、元気よく山に帰っていった。


サービスだって
紙もいらないって
かわひもっていうのつけてくれた
ほどけないよ
とれないよ
人間ってすごいねえ

嬉々としている子をみながら、私も過去を振り返る。
手袋を、売ってくれた人間のおじいさんは、代金もちゃんと受け取ってくれた。
今回は代金もいらないと?
人間はいまとても不景気だろうに・・・

でもかみさまは思っている。
もし宝石屋が受け取っていたら、あらぬ誤解が起きてただろう。
だって横領の証拠だもん。
連番だろうし、間違いなく、警察沙汰になったろう。
カーネリアン。
語源はラテン語、「肉(carnis)」とか「新鮮(carneolus)」。
雑食とはいえもともとは肉食の、おまえたちには向いている。
神様ちょっとにこっとして、春先の野原を見守っている。

これ以上乱開発がないといいね・・・


見守られてるとは露知らず、親子は塒(ねぐら)に帰ってゆく。
子の片前足の革紐の、カーネリアンは朱に近い紅。
何だか誇らしげに輝いていた。

それでも地球は回っている