銀木犀の恋~終章~①〔R18指定有料作。18才を迎えるまではお読みになれない一作です〕

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何百年も
何千年も
あの人だけをみてきた
あの人が
手には入らないとわかって
息子さんを狙ったら、
あの優しい人が私を焼いた
息子さんの為なら全く躊躇なかった
あまりのことに私は崩れ、永遠の命はいま失われつつある
遠からず、私は枯れる
終わる


なのにだ


焼け落ちた私の一部が、異種再生した


木犀のサガとヒイラギのサガを引き継いだその子たち
ヒイラギモクセイと呼ばれる一群が生まれたのだ


ヒイラギのような鋭いとげを持つそれらも、私の執着を受け継いでいる
あの人への想い
人間と交わりたい想い
すでにヒイラギを宿したその身はもう、つつしみも、ためらいも持ち合わせはしない
ただひたすら奔放に、あの人に走って行くだろう


私のあの人が穢される
あの人が、


危ない




久々に銀木犀の夢を見た。
いつになく、妖艶さは控えられ、あろうことか清純ささえ感じられた。
いや。
きっと私が枯れたのだ。
最近では、妻と手をつないで眠れれば満足なほどだ。
そんな私をもう侵食することなく、銀木犀も老いてゆくのだろう。
そうであって欲しい。


銀木犀?
あれが?


私は目を疑う。
どうみてもヒイラギではないか。
クリスマスに飾りたくなるほどヒイラギだ。
だが確かに花は・・・


正式には、ヒイラギモクセイっていうらしい。
ヒイラギとモクセイの交雑固定種なんだそうだ。
生け垣の大半がこれになってきてる。
こいつのことを銀木犀って呼ぶ会社も増えてきてる。


なんだかショックな話だった。
銀木犀には幾度となく、恐ろしい思いをさせられたが、別の花に取って代わられるなんて、いたましいことこの上ないではないか。


食事時に妻に話したら、

そんなことってあるんですねえ

と、ちょっとびっくりしたようだったが、私が転職してもう随分になるからか、あまり熱心な反応ではなかった。

孫たちはどうしてる。

双子ちゃんはけっこうおむずがりで、翔、てんやわんやです。
エイダ、白人だからですかねえ、何度も何度もかかりますねえ。
都度都度翔が会社休んで・・・
心証悪くならないでしょうか?


さすがは母親。
気にするのは息子だけか。
君は知らないだろう。
君が翔のところでおさんどんになるたびに、私には淫靡な誘惑が・・・


受け止めたことはないのだぞ。
夢の中に来るんだ。
銀色の瞳のあの女を、何度拒んだことだろう。
拒み通してること自体をほめてほしいんだよ私は。
それとも、ついふらっといってもいいのかな。
君は。

君。

君って人。


時々君がわからなくなる・・・




夕刻妻は別住まいの息子を手伝うべく家を去り、私はいつものように、寝室の前に塩の線を引いた。
寝室内にも。
ベッドの周囲にも。
ふつう植物は、塩を撒かれた土地には生えられない。
聖別の意味と植物の基本特性に従ってやってるが、本当に効果はあるのだろうか。


ある。


と信じる。
塩の守りをするようになってから、私は危うくも襲われてはいない。
だから・・・


かつて植物の守り手だったのにな。
この手は・・・

苦く思いつつも、私はベッド周りを塩の線で囲む。
きっちりと。


そして夜半。

やはりそれは来た。

エイダ。

息子の嫁。

いや。
一見息子の嫁に見えるその女は、決して実体ではない。
アルファ株に感染し、デルタ株にも感染し、今回はオミクロンだと。
そんなからだで、こどもも夫や姑に任せきりで、義父を襲う嫁があるものか。
ああでも、銀の瞳だ。
美しい顔立ちの中でも異彩を放つ銀の瞳。
エイダ。
もしくはエイダの姿をしたおまえ。


おまえはいったい何者なのだ。


迫る者


塩の防衛線は、決して破られないはずだった。

エイダは線を越えられない。

はずだった。

ところが今回の“エイダ”は一味違ったのだ。

線を越え、私のほうににじり寄ってきたのだった。


お義父さん・・・


妙な抑揚で呼びかけながらこちらににじり寄ってくる。

塩に触れた部分からは煙が上がっている。
燃えながら扉を押し開き、室内へ、ベッド際へと明らかに接近してきている。

エイダ~のような女~は言う。


やっとここまで参りました
可愛がっていただくために、
ここまで参りました


頭の中に直接響く声。

口は動いていない。

なおも女は私に近づき、身を乗り出すようにして、ついにベッドに上がってきた。

私は思わずとびすさるが、若い嫁は、じりっ、じりっと、私のほうに這い寄ってくる。
ドレスとも、着物ともつかない着衣を、肩から落とすように脱ぎながら、私ににじり寄ってくる。
やせた胸板、胸乳(むなぢ)は撓わだが、それだけに妙にコケティッシュ。
谷間がやけに視界をおおう。
のしかかられている。
腹、臍、下生え、ああ、クレバス。
髪と同じ金のヘア・・


私ノ中ニ分ケ入ッテ
私トヒトツニナッテ・・・

私はもう、拒みきれない。


ついに


妻を


裏切るのか・・・・・



そうはさせないわ。



強い意識が私の脳に直接届いた。

銀木犀に似た声で、

似た響きの声で。

私の脳裏で二つの声が争う。

私のよ

違うわ

この方は私だけのひとよ!

脳が焼けるほどの響きを以て言い放った者こそ。

確信した。

銀木犀なのだ。


ではこの女は!


②完結へ続く

↓これです



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最初の話は↓

その続きは↓

で、本作、

その後に↓

で、全完結となるわけです。

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