母親〔グロいの苦手な方は閲覧ちょっとご注意ください〕
娘がゾンビを拾ってきてしまった。
ちゃんと面倒みるから!
口だけだ。
犬も猫もハムスターもジュウシマツも、結局私が面倒みたのだ。
お願い!
拝む娘に押し負けるかっこうで、ゾンビはうちの裏庭に放されたのだった。
若い男のゾンビだ。
まだ完全にはゾンビ化してないようで、日中は何かとメソメソしてた。
泣けるんだから人間じゃないのと聞くと、娘は違うと言う。
ワクチンの効果で進行が緩やかなだけ。
人間の食べ物はとうに受け付けないし。
じゃあ何を与えているのか。
中学の時の…
と娘が見せたのは、中原先生と安達先生だった。
薬か何かで眠らされている。
街中うろうろしてるとこをラボが捕まえてくれた。
生き餌しか食べないので、このままキープ。
非人道的な話なのに、私はショックを受けなかった。
だってこの二人が先に裏切ったのだもの。
磯田雅に加勢して、うちの子を黙らせた…
磯田さんは?
食糧化出来なかった。
もうゾンビになってたし。
悪運が強い。
階段から突き落とされた後遺症で、うちの子は今も片足不自由なのに。
でも、地頭はよかったから、理系の大学行けて、院進んで、論文出した頃にあのウィルスが流行り出して。
感染すると徐々にゾンビ化して死ぬ。
死んだ後はふつうのゾンビだけど、ウィルスは撒き散らす。
いまや街は自警団とゾンビだらけ。
娘はたまたま大学で、似た組成のウィルスを研究していた、それが折よく人類を救えるかもな、偉大な研究となったのだ。
実際娘が試作した薬は、感染15時間以内ならゾンビ化を阻止すらできる。
そんな薬を作れる頭脳の持ち主を、いじめ殺しかけた小娘が既に人ならざるのはめちゃめちゃ残念だけど、中原と安達が餌食になるとこだけはこの目で見られそう。
それが嬉しいほど私も病んだのだ…
中原はとうに食材と化し、裏庭にはもう逃げ惑う安達だけ。
美しい顔立ちの半ゾンビがいま彼の片腕を引き抜いた。
一日二体はけっこう大食漢だなあ、これでまだ半ゾンビなのかー、と見ているうちにふと気づいた。
この子…
磯田に似てて当たり前。
弟だもの。
え?
磯田雅は確かにゴミだった。
でも弟には罪は…
あるでしょ。
同じ顔。
同じようなこともやってた。
苦しんで当然なのよ。
冷たい声。
食らわれてゆく安達を、食らっている少年を、その涙を、娘は薄く笑いながら見ている。
もしかして…
不意に私は理解した。
ゾンビウィルスを作ったのは。
ばらまいたのは。
でも。
有能なあなたが、
それでも私はひたすら誇らしいのだ。
999文字
↑10作とか集まりました。
めっちゃ嬉しい。
意外と血みどろ度は薄いです。
私のがいちばんグロいかも(グロいだけww)。
むしろ思考遊戯、思考実験的です
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