私本義経 鎌倉の意向

真に慕うのは…


九月一日、範頼兄上が京を発たれた。
八月八日に兵を率いて鎌倉を出られたのは、私たちに与力するためではなく、あくまでも瀬戸内平氏殲滅のためだった。
いや、殲滅のためですらない。
頼朝兄上の悲願は、三種の神器の奪還であり、平氏が素直に返却するならば、和睦さえありうる話だったのだ。
私の戦いがまだ続いているというのに、範頼兄上の勢は京都を通り抜けただけだった。
私は範頼兄上と平氏決戦に赴きたかったが、法皇も公家衆も、私を手放してはくれなかった。
来る日も来る日も市中取り締まりと、陸平氏狩りである。
藤原忠清はまだ、杳として行方知れず。
結局かの人物は翌年まで取り押さえることができず、いつまでもいつまでも京の脅威であり続けた。
だがそのおかげもあってか、私の任官~検非違使、左衛門尉~の件はしばらくの間、頼朝兄上のお怒りに触れずに済んだ。
それどころか、信兼以下平氏家人の京都における所有地を、私の支配としてよいという、頼朝兄上からの書状まで受けたのだ。
じつは平信兼、平家継らは、

私と義仲との関わりの際に、私の側に味方してくれた者たち

だった。
それを断罪し、犬のように追い立てている今の立場、信兼の息子たちを騙し討ちのように誅したことすらも、頼朝兄上は許してくださった。
少なくとも私はそう受け取った。
私は浮かれた。
ますます忠勤に励もうと思った。
もう範頼兄上なんかどうでもいい。


婚姻


けれど…
他には何のお声掛けもない。
平氏を華々しく討つとかしたいけど、海平氏の許に出向いているのは土肥(実平)、梶原(景時)、そして範頼兄上だ。
海戦やりたい。
海戦!!


久々に中原親能殿にお目にかかった。
息災と見受けられたが、その口から、度肝を抜かれるような話を聞くはめとなった。

嫁御がいらっしゃるようで?

たれに?

あなたにですよ。
おめでとうございます。

おめでとうと言われたって…

たれ?
どこの女人!!
屋敷に戻ると嫁御は既にいて、まだ旅支度も解かれていなかった。
家人二人と従者が三十有余人。
待ってくれ。
私の屋敷なのに嫁の従者のが多いのか!?

河越重頼が娘にございます。
従姉は範頼様に嫁しております。

それも初耳だからっ!!


吉内が、弁慶が、佐藤兄弟が笑っている。
主を笑うな!
私は!!


床入りした。
重頼の娘は身悶えてずり上がり、褥に血の痕を残した。


たずさとは違う肉。
他の男を知らぬ肉。
こじ入れねば入らぬ筋目。
ほのかな縮れ毛。
不意に思い出した。
たずさの下毛は黄金色だった。

黄金色だった…


それでも地球は回っている