判定〔襟瀬さんに謹んで呈する一作です〕
コンタクト、入れてると思ってた。
だってさっきまで全部見えてたから。
けど違った。
さっきまで、全部見えてたと思ってたのは、
見えてる気分
のせいだった。
たまにある。
浮き立つ気持ちでいるときに、普段の数倍調子が出てしまうこと・・・
エルサ・クインの試合があまりにも見事で、私は完全に見惚れていたのだ。
気づくともうこの試合が始まってて、コンタクトはポケットの中だ。
さりげなく付けようにも、全世界中から400を越すカメラがコートをねらってる。
主審じゃない。
副審だし。
こそっとやったらバレずに・・・すまない。
普段目に付かない副審だからこそ、動いたら違和感ある。
見えない。
見にくい・・・
アウト!
アウト?
あ。
見てなかった。
みてなかった!
ボール痕!
これは!!
主審は気が短いアニエス・レオドーレ。
南無三!
『この試合の敗北で、女王、ミューズ・ジャンセンは引退を決意したが、7ヵ月後復帰し、主審アニエス・レオドーレが逆に引退した。
ミューズ・ジャンセンの引退試合となったこの試合は、たった一球の判定が、全体の均衡を打ち破ったといわれている。
あなたたち次代の審判員は、レオドーレの轍を踏むことの無いよう、慎重な上にも慎重な・・・・・』
それでも地球は回っている