角〔いささかさちピコードかもしれません。映像化連想力のあるかたは、用心して読み進んでください〕

最近弥栄はキャップかぶってる。
それでも多少わかる。
生えてきてるのだ。
角・・・

人間じゃなくなるんかな。
そもそも角ってなんなんだろ。
そもそもうちの一族って・・・

力を持った一族の末裔に生まれただけ。
ああでもうちはその一族に従うさだめ。
弥栄はなに?
俺はなに?
俺たちどうかなっちゃうの??

そんなこんなのとある日、俺は新校長に呼び止められ、





気づくと口が耳まで裂けていた。
盛り上がった背中、異様に太くなった腕。
指先は曲がり爪は長く、鷲のそれのように鋭く湾曲していた。

そんな姿であなたとわかってくれるかしらね、若様。
九鬼を潰し、眷族を奪った罰よ。

そんな言葉が耳の中に届く。
行き合う人が悲鳴を上げて退く。
それほどに異様か俺。
若様って弥栄のことか。
おふくろ様にも黑塚にも見られたくない。
家に・・・帰ろう・・・

母が息を呑んだ。

なんで!
なんであんたがそんな!
あなた!あなた!

父を呼ぼうとする母に、飛びついて肩口を噛み裂いた。
母なのに!
わかってるのに躰が勝手に動くのだ。

こ!こらやめろ!化け物!

父がわめきゴルフクラブを振りかぶってかけてくるのを片手で払った。
父はそれだけで居間まで吹っ飛び、そのままだらしなく伸びてしまう。
だらしないんじゃない。
俺の力がそれほどに増大してるのだ。
口には未だ母の血の味。
いやだ俺、なにしてるんだ俺。
弥栄、弥栄、助けて!!

もっと早く呼べ。

ふっと弥栄が現れて、なんのためらいもなく俺を抱きしめた。
それだけで俺の変容は解けた。

弥栄・・・!

俺はだーだーに泣いていた。
そして弥栄は怒っていた。
これまで彼が見せたことのない、激しく冷たい怒り。
そして角。
額の両側から現れているそれは、小さいが、まごうことなく角。
鈍い銀色に輝いていた。

弥栄それ・・・

ああ。
出てきちゃった。
削っても削ってもこうなるんだ。
こうなっちゃうんだ。

弥栄は泣いていた。
俺も泣いた。
俺の変容は解ける。
父の打撲痕を消し、母の噛み傷も癒やせるのに、弥栄は自分の角を消せない。
木目角の若様。
数鬼が恐れ憎む唯一無二の存在。
俺の親友・・・

おまえを見た連中の記憶も消した。
もう大丈夫、ごめん、
眠い。

ちょっと眠らせて・・・

弥栄はその場に膝から崩れ落ちた。

弥栄!!

俺はばかみたいに弥栄を抱きかかえて、ただただ泣いてるだけだった。




それでも地球は回っている