見出し画像

はじめに言葉ありき〔さくらさんへのお礼作です〕

※ 元々のタイトルは『ことば。はんばいちゅう』でした


販売所の看板は、

あきないちゅう

と、

あきないしてません

の裏表。
日時が出るわけではないので、みんなまめに見にいってる。

あいてたよ!

隣のこどもが親に報告に走った様子を見て、うちもお財布を持って駆け出す。
もう販売所の前はごった返し。

厳しさ!

勤勉!

陽気!

最先端!

様々の言葉が乱れ飛ぶ。

青色!

赤色!

紫!

色名を叫んでる人は画家さんかなんかだろうか。

優しさを!

知恵を!

三十から四十くらいの、お母さんらしき雰囲気の人たちも、必死の声を上げている。

先生を!

いい先生を!

このあたりから危ない感じになる。

銀行員!

警察官!

お医者様を!早く!

早くも金切り声になり、人の動きが慌ただしくなるが、ふいに人波はすっと引いた。
言葉が売り切れたのだ。
売り物がなくなると、街は動きをピタリ止めてしまう。
だって生活は、社会は、言葉から成っている。
言葉がなくては事象もないのだ。

店を閉める間際、お店の人はちらと私をみた。

何を買いにきたの。

死を…

死か…
死、死、

しばらく棚を探してくれたけど、キッとこっちを見て言った。

やっぱりもうないわ。
来月おいで。

ガラガラとシャッターが閉まった。
もう一ヶ月、私は生きる。
生きるよりないのだ。


さくらさんご参加ありがとう

この朝顔のように、いつも清らかなあなたに憧れます


それでも地球は回っている