悪縁~ちょっとしたはずみのものがたり~続の続の続。春サイド2〔R18有料作〕
Fランド以来俺たちはさらに接近した。
やってやってやりまくってもまだ足りない。
それはまるで渇きのように俺たちを襲い、俺たちはしばしば、夜を徹して愛し合ってしまった。
もはやもう、エロティックなお遊びの入り込む隙間などなく、そこにあるのは息が詰まるほどの愛、愛、愛、愛、うんざりするほど濃密な愛しかなかった。
俺と夕夜は繰り返し、濃密すぎる愛を貪りあった。
飽きはしない。
少なくとも俺は。
だが、夕夜はまだ若い。
何が良くて俺といる。
新しい恋や結婚や、世間に出せる愛の形を持てるはずの夕夜を、俺は自由にしてやるべきだと思った。
俺は夕夜と会うのをやめた。
毎日電話やメールが来た。
俺は機種変した。
かれは俺の事務所前やマンション前にも現れた。
俺は引っ越した。
新しい携帯にも、新しい住所にも、たちまち夕夜の影が差し、俺は機種変と引っ越しを繰り返した。
四回やって、やっと夕夜は現れなくなった。
現れなくはなったけど、共演している番組では会ってしまう。
雛壇の席は隣だし、ミュージシャンどうしだし、なかなか絡みは切れない。
番組に穴をあけられないので懸命にもたせるが、精神的にはもうボロボロだった。
愚かしいレギュラーアイドル嬢にも、司会の美形人気デュオにも気づかれずに済んでいたが、なぜか超自己中のご意見番ロッカー、寳辺竜樹(たからべりゅうじゅ)さんに気付かれたのだ。
飲みに連れ出された会員制クラブで、俺はいきなりこう切り出された。
「おまえ樹絵瑠にストーカーされてるだろ」
竜樹さんは大半のミュージシャンをバンド名で呼ぶ。
間違いなく、夕夜を指していた。
「え」
俺はめちゃめちゃ動揺してるけど、竜樹さんは頓着なく、サクサク続ける。
「手、出したの? 出されたの?」
「そ…ういうことじゃなくて…」
とりあえず否定はしたものの、俺の胸は早鐘のように鳴っている。
「そういうことでもどういうことでもいいけどさー。売り出してくれてるプロデューサーの顔とか、潰さないようにしないと」
「ですよねー」
諭されるままに飲み続けたら、したたか酔ってしまって、
目覚めた俺は何と!
全裸で竜樹さんちの、キングサイズベッドにいたのだ。
慌てて全身をまさぐったが、特に異常はなく、ほっと胸をなで下ろしているところへ、被りのロンT型のナイティ姿の竜樹さんが、グレープフルーツジュース入りの、背の高いグラスを二つ持って現われた。
「失礼だなあ。年寄りの酔っ払い襲うほど、不自由してないよ僕は」
「年寄りの酔っ払い…」
頭がくらくらしたが、確かに昨晩の俺は年寄りの酔っ払い。
否定できる立場ではなかった。
「しかし」
竜樹さんは笑い出した。
「裕貴(ゆたか)が受けとはねえ」
「なっ、何でそう思いはるんですか!?」
「カラダみりゃわかる。特にケツ。それなりの期間付き合ってなきゃ、そーはならないよ」
と決めつけ、
「ラブラブだったんだろ? おまえずっと幸せそうだったもん。何でムリムリ切るかなぁ。あ、ひょっとしておまえ、身を引くとか決めた?」
「!」
俺の顔色が変わったのを見て、竜樹さんは確信したようで、
「図星だ」
「違います!」
言い切ったが、続けようとして声が詰まった。
「違っ…」
涙が滂沱と流れ、声を殺すことさえかなわず、俺はその場に泣き崩れた。
その日から、竜樹さんは俺を完全にガードすることに決めたようだった。
竜樹さんちに留め置かれ、番組の収録にもそこから通った。
連れて行かれて連れ帰られ、飲みに行くのも竜樹さんの行きつけ。
上枝さんやスドーさんとの打ち合わせさえ竜樹さんちで行う始末だ。
「俺がソッチ系なら、カラダで忘れさせてやるんだけどな」
同じベッドの端と端で、ちょっと妖しいことを言う竜樹さんは、俺を迷惑に思ってるだろうに、結構まめに面倒をみてくれているのだった。
「俺大人だし、自分で対処できますよ」
「できる子は」
と竜樹さんは、オーディオのリモコンをオンにする。
前方壁面に大写しにされたのは先の、滂沱の涙する俺!
「こんなにならないよ」
「録ったんか!」
「可愛かったから」
「!」
呆れ果てて言葉もない俺のところへ、逆端から竜樹さん、転がり寄ってきて、俺の肩口を抱きしめた。
「恋はねえ、結局、男も女も関係ないんだ。その最中は幸せだし、失えばつらい。時間以外、誰も癒してはくれないんだよ」
抱きしめられたまま、俺はまた泣いた。
久々に、人のぬくもりに包まれて、俺は泣いたまま眠りに就いた。
それでも地球は回っている