早とちり〔ナランチャさんへのお礼作です〕


俺が奈々美を好きだと言った瞬間に、恵麻は泣いて駆けだした。
そのまま柴田を役所に連れて行き、婚姻届を出した。
バカか。
奈々美を好きだったけど、いまは、おまえに心奪われて、と続いていたんだぞ。
しょうことなしの俺と、押せ押せの奈々美。
押し負けて、俺は奈々美と結婚した。
こどもが生まれて、母親してる奈々美がだんだんかわいくなって、これも幸せなのかなと思った頃、職場にいきなり恵麻が来た。
柴田と別れてきたという。
何で…
戸惑う俺に恵麻は言った。

桜沢君から聞いた。
あなた私が好きだったんでしょ?
ごめん気づかなくて。
今度こそ間違わないから。
絶対間違わないから。
一緒に生きよう。

そう言って差し出した恵麻の手のひらは真っ赤で。
よく見れば服にも顔にも乾いた血がこびりついてる。
誰の…

誰の!


答えを聞く勇気は、俺にはなかった。
警察に連行される恵麻は最後まで、この俺に向かって笑いかけ続けていた。



恵麻は鑑定留置の後、措置入院となった。
毎週家に手紙が届く。
俺は開封しないが、片付けてくれる人もない。
小さな仏壇には三つの位牌。
柴田にも身寄りはなく、しょうことなくうちで預かっている。


それでも地球は回っている