生きてゆく場所〔名探偵に贈るちょっとした一作、です〕

多美(ますみ)。
最近よくない?

うん。
うちらのこと見下さなくなった。

昔はさ、美人だとか、頭いいとか、彼氏が官僚とか、そんな面ばっかだった。
アナウンサーなっちゃってさ、人気も出て、全然こっち帰ってこなくなって。

でも旦那のタレントが浮気して、離婚して、それでも芸能界続けるのかって思ったら、引き上げてきたんだよね。

最初は標準語だったよね、気取ってた。

でも最近は公園掃除にも来るよ。

PTAにも出てくるし、東京ではこうとか言わないし、収まった感じ。

今の多美なら仲良くできる。

私もー。


PTAルームに忘れたスマホ取りに戻ったら聞こえてしまった会話。
私って、そんなに感じ悪かったん?
そんなことなかったと思うんだけど。
それになに。
旦那に浮気されて離婚?
世間には、そういう話になってんだ。
浮気なんてなかったよ。
旦那破産しちゃってさ。
これ偽装離婚なのよ。
生活立て直したら迎えにくるってあの人言ってたし、子育てだけならこっちのがいいし・・・


ううん。
わかってる。
私はもう、あいつと生きる気ない。
都会に執着してもむなしいことも知ってる。
お帰り沢本多美。
ここが私の新しい立ち位置。
心はもうとうに決まっていた・・・


忘れ物しちゃったあ!

ジャスト今きたばかりのていで、私は元気よく勢いよく、PTAルームの戸を開けた。


それでも地球は回っている