とりあえず書いてみた2〔応募作にする予定なので、引用転載はご遠慮くださいますよう、よろしくお願いいたします〕


水に流すべき話


俺に惚れたんだってさ。
あのご面相で。
あの体型で。
才能豊か?
あの程度で?
学歴もないんだぜ。
頼むよ。
俺を好きだなんてやめてくれ。
俺の好きな女は、自分でライブハウスやってんだ。
女手一つで、旦那の忘れ形見育ててんだ。
かっこいいだろ?
俺の好きな女はそういうやつなんだ。
おまえなんか目じゃねえ。


おまえなんか目じゃねえって目。
いつも。
いつも。
プロデューサーもディレクターも、認めて、かわいがってくれてるのに、ペーペースタッフのあんただけがあたしを認めてくれない。
こないだなんか会議通ったホンについてわざわざ電話してきて、俺はあれ、絶対認めませんからねって。

嫌われてる。
わかってる。
でも好きになってしまった。
好きになってしまったんだよ。
どうしようもないの。


再婚しやがった。
俺以外の男と。


どうしても、
どうしても、
あたしじゃだめなんだね。


死体は川に捨てた。
さすがに死に顔はきれいじゃなかった。
こども、ビービー泣くから、そのまま川に突き落とした。


その子を助け上げて17年。
何の因果かあたしが育てた。
その以前の記憶をなくしたこどもは、あたしにママ、って笑いかける。

何の因果だか。



春先、あの男は死んだ。
癌で。
痩せ細って。


あんなやつのために、ママは二筋涙を流した。
私、記憶あるし、ママの思慕も、あいつが受け入れなかったことも知ってる。


終わったんだママ。
全部水に流そう?


育ててくれてありがとう。

それでも地球は回っている