仁保

ズタズタだった髪を、なおしてくださったのはお母さま。
娘のように可愛がってくださった。
九鬼では力しか求められなかったのにお母さまは、私が弥栄をころそうとしたことまで受け止めたうえで、
仁保ちゃん
仁保ちゃん
って可愛がってくださった。
だからもういい。
私は弥栄守って消えよう・・・




目が覚めると、仁保の長い髪が俺を覆ってた。
七メートル。
いやそれ以上ある。
俺を覆い尽くして余りある黒髪の中で俺は再生し、角もきれいになくなっていた。

もとの弥栄だ
よかった・・・

そんな声と一緒に仁保が消えてゆき、




あとには俺の手のひらより小さい、丸禿坊主の土人形が一つあるだけだった。

仁保?

人形は答えない。
人形は答えてはくれなかった。
でもこれは仁保だ。

仁保だ!!!


全身が熱くなって再び角が額に現れようとしたとき。
突然のビンタが僕の頬を見舞った。
吹っ飛んだ。
はっとして相手を見る。
僕より少し年上の少年・・・高校生くらいのやつが立っていた。

また暴走するってんなら止めないけど。
土人形ちゃんの誠意と努力、無にするんなら勝手にすればいいけど。

土人形じゃない!!

叫んだつもりだったけど、声にはなっていなかった。
代わりにこう言ってた。

仁保だ。
黒塚仁保だ。
同学年で、隣のクラスの・・・

母のお気にだった・・・


これも言葉にならないまま、僕はそっと人形に触れた。
まだなんとなく温かかった。



それでも地球は回っている