背中

走っても走っても、僕に見えるのはやつの背中だけ。

やつは特別なんだ

つぶやくように言う修二の、言葉のわけが今初めて、僕の心に突き刺さる。
鈴中でいちばん速い、江藤修二にさえいちども抜けなかった棚中の権堂支(ささえ)。
その権堂と僕が二区を競うの?
悪い冗談だ。
僕の気分は暗澹たるものだが、今さら降りるわけにもいかず、ただただこうして走っているのだった。
だが。
辻を折れるとどうしたことか、やつが救護員と路肩にいた。
こむら返りを起こしたらしい。
舌打ちした権堂が、ちらと僕をみてふっと笑んだ。

頑張れよ

そういう視線で僕を見送る権堂の圧を背に受けつつ、僕は走り続ける。
リレーポイントはまだ遠い。




#30年前の四百字小説
#テーマは・後ろ・でした


それでも地球は回っている