まあなんとか出来ました

幸せ〔オリジナル。他媒体応募用のため、内容はナイショですよ〕



「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに声は告げた。
挑むたびに、かかる声。
誰のものとも何のためともわからないままかかる声。
それでも挑まねば。
挑まねばならないのだ。


頭の芯がキイン、とする。
私はだれ?
ああ、ファリハ。
ファリハ・メムノン。
魔法学園八年生。
どっちかっていうと優等生だが、そんなことはあんまり加算にならない。
卒業年を来年に控え、今年こそは課題を終えねばならないのだが、今年の“側(がわ)”はお話にならないほどお粗末なのだ。
側一。
ファノン・メルビナ。
我の強いツインテ。
しかもバカ。
行き当たりばったりだし、感情的だし、まるでなってない。
そして側二。
ヴィミニー・ソフィスケッドなんてもう、何をかいわんや。
それでもこのトリオで課題に当たるしかないのだ。
でも。

二人は今どこだ!?

ヴィミニーはここですう!

かすかなテレパシーが届く。

若い男担してますう!

担。
担当してるってか?
ちゃんと言葉使ってよもう!

ファノン様はこっち。
なんかめっちゃ美人の担、・・・当。

担って言おうとしたなこいつも!!
ああ。
私の側二人。
助けにならない側二人。
でもしょうがないのだ。
私が有能な分、側はオバカが当てられる。
受験者のレベルを揃えるためだ。
愚者には賢者を、賢者には愚者を当て、能力値を均等化する。
そうして課題に向かう、否、向かわされるのだ。


課題は人間一人分の『幸せ』


課題は例年たいてい同じ。
人間一人分の『幸せ』だ。
今地上には約一二〇億人類がいるらしい。
その中からたった一人選んで幸せにしなければならないわけだ。
より好みは出来ない。
自分の魔法の杖を投げてその杖が心臓にささった相手を必ず幸せにしなくてはならず、猶予はその瞬間から二十四時間、使える魔法はたった一つ。
まあ、あたしは、魔法学校の優等生だから、チョチョイのチョイで出来るだろう。
だから問題は・・・やっぱり側だ。
誰を引き当てたんだか・・・
ほんま頼んますよ・・・

さて降り立ったのはN市立第六中学校。
相手は女教師、沢村美由。
漢字の名前、漢字の職場。
日本という国らしい。
待て待て教師って。
どういう願いを持っている人なんだ?
担任してるクラスの生徒全員の幸せとかだったらどうしよう。
一つの魔法で足りるのか?

去年失格したファヴィユ・メッスールは、とある国の為政者引き当てた。
このバカが全国民を幸せにと願い、ファヴィユはあろうことか、まんま杖に願ったのだった。
『全国民を幸せに』。
魔法とは、能力と、願いのサイズがつりあって働くものだ。
もともと能力の低いファヴィユが大きな力を放つわけだから、効力は薄~くペラペラの紙みたいになった。
その国の全員が、そこはかとない幸福感だけを持つ静止状態となり・・・
先生がたがもとに戻すのに、地球時間二百二十日と、大人係数にして千五百魔力を要したそうだ。
あたしは同じミスをしたくない、というか、ファヴィと違ってあたしはもうちょい用心深い。
さあ沢村美由。
あなたを幸せにしてあげる。
あなたはもう幸せ一直線なのよ!

あたしは美由の心の中にダイブした・・・


美由の心の中は


美由の心の中はまっ暗だった。
生徒も日常も、ペットの犬すら見えなかった。
(美由がペットを飼っているかは全く知らないが)
真っ暗闇の中を手探りで進むと、そこにーつのことばがあった。

『立木里沙なんて死んでしまえ』。

ずっ、ずいぶんな願いだな。
でもこれが彼女の幸せなら、かなえなければならない・・・
(それも二十四時間以内に)
まずは立木里沙をさが

いた。
保健室医。
狭いっ!
ものごと狭すぎる!
(けど広かったら移動だけでも魔法使わなきゃならなくなる。
 神様ありがとうございます。
 ぺこり)
そっと保健室を覗くと、ドクトレス立木は診察席に坐ってデスクに頬杖。
 美由と同じくらい憂鬱な表情をしていた。
もしやこっちの心の中も??
覗きたいけど、担当でない人間の心を覗くのは魔法。
使ったら一つ終了だ。
さあどうする。
「協力するか?」
この声。
ああまさか。
ファノン!?
「当ったりィ」
みどりの髪、みどりの目。
ツインテに結んだ偉そうな・・・
ファノンはカラカラと陽気に笑った。
「偶然は怖いねえ。アタシが立木の担当で、アンタが沢村の担当だなんて。何か関係あるでしょこの二人」
「とても深く」
「心読むのに一魔法使うの惜しいじゃん。教えたげるからそっちも教えて」
確かにそれは得。
同じだもっと得。
あたし、もしかして候補生史上初、

魔法使わないで済んじゃう魔法使い候補生

になれちゃうかも!
神様神様、二人とも、全く同じ内容でありますように!
せーの、はあたしが言った。
けど内容は揃わなかった。

「沢村美由に許してもらいたい」

え?
あたしと同じくらいファノンも驚いていた。

「死んでしまえなの?」
「許してほしいなの?」
二人してうーん・・・と唸ったが、ファノンはすぐにぽんと手を打った。
「仲直りさせれば幸せになるんじゃなね?」
友情修復魔法一発で全解決?
それも確かに幸せっぽい・・・けど・・・
そこそこ感が否めない。
なのにファノンはすっかりその気だ。
「仲直りの魔法かけるよ。エニウスハルファーハルモルテネレ・・・」
「だめえええっ」
『エトウ!』で完呪文だったけど、どうにか防いだ。
「何で止める」
「簡単すぎる。今年の設問、メレディーツだよ。こんな簡単なわけない」
「メレディーツだってたまには簡単な問題出すでしょお」
ファノンンンーっ。
このお気楽魔法使い(未満)っ!
「とにかくこれは絶対引っかけだ。この食い違いのもとがある筈だよ」
と、デスク上を食い入るように見つめていると、3Dスタンドのスイッチが切ってある。
立木里沙はこっちを見ていない。
今がチャンス。
スイッチをオンにすると、きれいな3Dフォトが立ち上がった。
立木と美由と男が一人、一緒に映ってて、三人楽しげに笑っている。
と、立木が気づいてスイッチをオフした。
「オートにしてたっけか?」
そこに生徒が入ってきた。
「先生指切ったあっ」
「だから彫刻刀は気をつけなさいってふだんから言ってるでしょ!」
ガミガミ言いながら立木が手当てをしてる間に、外してあった指輪フォンの着信履歴に目を通すと、桜井通、桜井通、桜井通、桜井通、桜井通、桜井通・・・
同一着信が二十七件もある。
一通返すと、すぐ先方が出た。
「里沙。よかった、式場予約今日までなんだよ。このままだと流れる・・・聞いてんのかよ。里沙?里沙っ?」
切ってやった。
ネタは挙がってんだ!の気分。
あたしはファノンと顔を見合わせ、頷き交わしてそこを出た。


三人目


校庭の桜の木の枝に並んで坐る。
「桜井問題だね」
「桜井問題だ」
「男だね」
「男だ」
「そりゃあ死ねだわ」
「そりゃあ許せだわ」
では、幸せは?
「仲直りか?」
「破談か」
「宝くじでも当ててやるか」
「あまりにも漠然でしょうそれ」
「当てることは出来るよ? フィニー、フィニフィー、フィリフィフィー・・・」
「ストップ!」
あたしはファノンを激睨む。
「お金じゃない」
「お金だよー」
「お金ですうう」

誰、かわかる、この声。

「ヴィミニー?」
「当ったりィ」
(何でみんなこのリアク?)
上の枝からぶらんと、鉄棒ぶら下がりの要領で現われたのは、あおの髪、あおの目、ヴィミニー・ソフィスケッド31世だ。
「ボクの担は金ほしくってうずうず」
「何でいきなりここにいンの」
「担がもうすぐこっち来るからひっしで走って、あ、来た」
あたふたと、これも走ってくる、スーツ姿の男。
顔見てあたしとファノンがあっとなる。
桜井通!

金がほしい桜井通。
結婚せかされてる立木里沙。
立木恨んでる沢村美由。
この図式。
今度こそ、事情は明々白々だろう。
「ヴィミニーはお金の呪文。うちらは仲直りの呪文でどお」
「ファノンは破談にもちこみ、あたしは美由に新しい男。これでどお?」
よさそうには思える。
けど・・・
あとからあとから情報が出る。
簡単に判断するなってコトなのかも知れない・・・
「金と破談と新しい男でいいのかもしれない。でも違う側面が、さらにあとから出たらどうする?」
ヴィミニーとファノンが顔見合わせる。
「三時間待とう。三時間経って新展開なければ、金と破談と新しい男でいこう。それでどお?」
「異議なーし」
「ですです」

とりあえず各々の担に張り付く。
沢村美由を見守る。
あらためて思う。
すごい美人。
立木なんて足許にも及ばない。
でも心映えが黒い。
一瞬もゆるがず立木を恨んでる。
それも、

『こんな美人のアタシを振って!』

ならまだ可愛げがあるけど、ーもニもなく立木が憎い。
どういう心理構造してるのか。
生徒が生活日誌持ってきたが、そこ置いて、みたく場所を示しただけで、顔つきさえ変わらない。
生徒・・・好きじゃない?
学校は?
自分の職業は?
沢村美由。
あんたどーゆー人なのよ・・・

見ているだけでは何もわからないので、とりあえず立木たちの方を見に行った。
ファノンとヴィミニーが手招きする。
「修羅場修羅場」
まじで?
彼女らに並んで覗くと、うん、確かにそこは修羅場だった。

桜井通と立木が言い争ってる。
だから私は美由を泣かせてまで、結婚なんかしたくないの。
そんなこと言ったって、俺たち約束したじゃないか!
ごめん私、あなたと結婚できない。
ていうかしたくない。
あんまりだ!
俺めいっぱいあいつになじられたのに。
甘んじて受けたのに。
里沙、おまえってサイテーだよなっ!
なじってなじってなじり倒して、桜井通は去って行った。
殊勝な顔をしていた立木が、つと顔を上げる。
笑ってる。
満面の笑顔だ。
「やったああっ!電話電話!」
指輪フォン手にする。
「コール短縮01」
呼び出している。
相手が出た。
「美由~!OKだよ。今日行っていい?」
美由!?
返事もなく相手は電話を切ったが、立木の笑顔は全然崩れない。
あたしたちはただ茫然とうかれる立木を見ている。
三時間後なんて生ぬるい。
もっとじっくり見ないと・・・


決定打


その夜半。
あたしたち三バカトリオは美由のマンション前に再集結した。
その時間までには相当なことがわかっていた。
主としては、フラレ男の愚痴からだ。

         *

「美人二人だから目移りするの当然じゃんか。それでもちゃんと選んだんだ。美しいだけの陶器人形より人肌元気女。式場まで決めたのに、女ってやつはよォ……」

         *

泥酔の愚痴をたっぷり聞いてきたヴィミニーは、肩をすくめて言った。
「ボクあんたらから離脱っ。失恋の痛みとか忘れさせてオッケーにする」
ヴィミニーが立ち去り、あたしとファノンが残された。
「あれがヴィミの答え? 正解?」
正解かどうかはわからない。
あたし的には答えの出し方が簡単すぎると思えたけど。
「とにかく部屋、入ってみよう」

美由のマンションは高層で、小ぎれいで、本人と同じに味もそっけもなかった。
女二人はあろうことか、二人一緒に入浴していた。
広めの、細長い浴槽の中に、二人並んで体育座りみたいな格好で湯に浸かっている。
「まだ気が晴れない?」
立木が聞く。
「晴れない」
初めて聞く、美由の声。
少しハスキーで暗めだが、きれいな声だ。
「泣いてわめいてたんだよ。惨めに。ハンサム台なしで。でもだめなの?」
「駄目とかじゃなくて・・・」
 初めて美由は立木を正視した。
「何で寝たりしたの?」
「それは・・・桜井を信じさせるため・・・と・・・」
後半がしゅううっと小さくなった。
「と?」
「男って・・・どんなもんかなって・・・」
「だと思った。あなたまだ覚悟ないのよ」
美由がツンとソッポ向く。
あたしは息をのむ。
感情のある美由が、こんなにやわらかく美しいとは。
では学校での、氷のような石のような美由は何?
美由はいったい何なの?
「ユリだよユリ。あの二人できてるんだよ」
ファノンは確証を得たように言い切る。
そうね、近いかもしれない。
でもまだ違う可能性もある・・・

夜が明けた。
地上に降り立ったのが昼頃だったから、あと三時間ほどしかない。
二人は結局一つベッドに寄り添って寝たけど、別段アヤシゲなことも起きなかった。
「ユリじゃないのか」
 少し残念そうにファノンが言う。
「ユリであってほしかったの?」
「そうかも。だってわかりやすいじゃん」
 ファノンは深々ため息をつく。
「じゃあ何だろう。姉妹?」
「顔似てない」
「似てない姉妹もいるじゃん」
「いるけど」
血のつながりとかでない、何か全く別のつながりを感じるといえば感じる・・・
あたしたち二人でああでもないこうでもない言い合ってる間に、立木と美由は、学校ヘ行くための身づくろいを終え(つまり立木の着替えもそのマンションにあったってことだ!)、二人してマンションのその階のエレべーターを目指していた。

はるばる一階からエレべーターが来る。
二人を迎えに。
二人を迎え、そのまま連れ去ろうとする人々を乗せて上がってきた。
二人は黒背広の男たちに取り押さえられ、エレべーターに押し込まれ・・・

二人はその日、終日、学校には現われなかった。


研究所


あたしとファノンは連れ去られる美由たちについて行った。
着いたところは研究所みたいな施設だった。
あたしたちに現世の質量があったら、決して中には入れなかったろう。
それほどにセキュリティチェックは厳しかった。
二人が連れて行かれた部屋には一人、既に初老の男が連行されていて、美由たちは彼を見てあっとなった。
「お父様。どうしてここに」
「あんたたち何でパパまで運行してるのよ」
言ってから互いにあっとなる。
「パパ?」
「お父様?」
「何でこの方(この人)があなたのお父様(パパ)なの?」
互いに完全に驚いている。
ファノンが私を見る。
姉妹じゃん。
違う、と私は首を振る。
もはやそういうレベルじゃない何か。
この状況はもはや異常以外の何ものでもない。
そこに桜井通も連行されてきて、男を見て戸惑う。
「父さんっ」
 美由たち再び唖然となるが、桜井の次のセリフを聞いて二人はもっと驚いた。
「あんたら誰だ」
待てぇーッ!?
ファノンもあたしもみたび、あっとなる。
これは、つまり・・・

「ソウデス。ボクデス」

しょげた態度でヴィミニーが現れた。
「魔法使った。メレディーツ、失格って。落第かくていしました。ぴいいいいっ」
泣き声のヴィミニーはかわいそうだが、かわいそうなのは桜井通も同じだ。
「魔法は解けないの?」
「いったんかけたいじょう、とりけせません」
「どういう理由で失格したの?」
「りゆーはぜんいん戻るまでゆえないそうです。でもヴィミニー、この大バカモノってゆわれました」
大粒の涙をポロポロこぼしてるヴィミはとりあえずおいといて、あたしは三人を見比べた。
美由と立木と桜井。
似てない三人があの男を父と呼ぶ。
その謎が今、この場所で明らかになる・・・のだろうか?


親玉


親玉みたいなのが出て来た。
鶴のように痩せた、尖った顔つきの男だ。
三人の若い男女を均等に見渡してから、おもむろに、初老の男に声をかけた。
「みごとに育ったものだな。彼らは自分がグロウロイドだと知っているのか」
「一号は知っている。二号は知ってるが、いまいちよくはわかってはおらん。三号は知らん。仮親も与えたし、多分自分を純正の人間だと思っておるだろうよ」
「フム。面白い」
女の士官(メガネ、白衣の、これもかなりな美人だ)も来て、ロを挟む。
「三号の記憶に一部欠落があるのは何で?」
「それは何とも。ついきのうまでは一号とニ号を、恋人と、もと恋人だと思っていたようだが」
「結婚前提の性交渉まで持ったのよね。殆ど人間と同じ。バイオ素材だからかしらね。すごい出来」
感嘆口調の女の士官だったけど、咎める口調は痩せ尖りと同じだった。
「何で持ち出したんですかっ・・・て聞くだけヤボかな。博士、あなたはもともと、グロウロイドに人権を与えよ派でしたよね」
「人間だろうが。どこから見ても。心すらある。生殖も可能の筈じゃ。命と生まれて命として死ぬのじゃ。頼む、人間と思って・・・」
「人間!」
嘲るように痩せ尖りが割って入る。
「三百年生きる美しい人形だぞ?最初から完成され、優劣もない。こいつらを人間と認めたら、もともとの人類は一夜で滅ぼされてしまうではないか!何より緒方博士、こいつらはもともと軍用なんだ。人間が戦争に行かなくていいように作られたんだ。それが人間になったら、誰が戦争に行くんです!」
「戦争をせねばいいだろう」
「でもって来年には二四〇億人類を養いますかこの星で! 既に月すら満杯なんだ。どうするんだあんた!」
「人権がやれないのなら、せめて火星を」
「駄目だ駄目だ駄目だ!火星も地球人類のものだ!こんな奴らに地球は渡さんっ。火器部隊!」
痩せ尖りが一声かけただけで、一団が現れた。
防護服を着用し、巨大な燃料タンクを背負い、火炎放射器の筒口を三人(三体?)に向けた一隊~防護服の中の顔は、一様に白いだけの能面。この面々もヒューマノイド、グロウロイドとやらの安価な劣化版とかなのだろう~が出現した。
「とっ、父さんどういうこと? 俺ら、俺ら焼かれんの!?」
いちばん桜井(三号か)がオタついている。
美由(一号だろう)が立ち、立木(二号かな?)が立った。
「三号。あんたパパを」
立木が言ったのと痩せ尖りが、
「放て!」
と叫んだのはほとんど同時だった。
炎の渦が三体と、初老の男を包む。
だが炎が止んだとき、三体と一人は全くの無傷、なだけでなく、正面に立った美由は強い視線を放ち、強力な念波のようなものを発した。
あたしたちの目に見えるほど強いその波動は、ヒューマノイドたちにこう命じていた。

私たちはあなたがたの同族だ。
もう人類の言うことは聞かなくていい。
私たちを守って脱出を手伝いなさい。

ヒューマノイドたちの中で、何かの枷がパキッと壊れた。
筒口を痩せ尖りや、白衣の女や黒服たちに向け直した。
ためらいもない引きがねがいま、強く引き絞られた。

「うわああああああああっ」

燃えながら逃げ散る人間たち。
ヒューマノイドたちに守られながら美由たちが脱出にかかる。
「どういうことだっ。どういうことなんだこれは」
記慢の一部をなくしてる桜井~三号~は、おたおたしながらついていくだけ。
と、ヒューマノイドの一体が、あの初老の男にも筒口を向けた。
が、美由が筒口と男の間に割って入った。

「駄目よ。この方は、私たちやあなた方のお父様なの。この人間だけは例外よ。覚えておきなさい」
「じゃっ、じゃあ母さんも!」
 怪訝に桜井を見る美由だが、博士が頷くと了解した。
「桜井綾子さんも」
「ありがとう」
桜井通は美由に礼を言ったが、続けてこう言った。
「でもって君たちは誰だ」

ずいぶん力技なやりかたで、美由たちはその場をあとにした。
残されたのは、ファノンとあたしとヴィミニー。
(ヴィミは既に失格が確定している)
試験の残り時間はあと二十分だ。
ファノンが戸惑いながらもロを開いた。
「アタシ、里沙の気持ち受け取った。これで願いかなえれる」
一歩前へ進み出て、空中に魔法陣を描いて呪文を唱える。
「エルリタ、アルニタ、メルデローツ。メイ!」
光の束が去った四人~三体と一人~を追って走っていった。
四人で末永く幸せに暮らせますように、か。
「まんまだね」
ヴィミに言われて、
「黙れ失格者」
あらためてあたしを振り返る。
「ファリハはどうすんの?」
あたしは・・・
「ちょっと思うとこあって・・・このまま学園戻る」
「えーっ!?」
「ファリハ失格になっちゃうよ!?」
 それでもあたしが飛びたつと、二人はあたしを追ってきた。
 二十三時間五十分十七秒。
 ことしの魔法試験が終った。


大団円


「そんなだからヴィミは落ちンだよ」
「それをゆうなあっ!」
二人のドタバタを横に見ながら、あたしはメレディーツのことばを思い出していた。

よく事態を見極めましたね。
そう、人間ではないとはいえ、杖もちゃんと刺さりましたし、日常行動は完全に人間のものでした。
人間と判断してもよかったのです。
でもあなたは、そこに人間と異なる何かを見つけました。
杖がグロウロイドに刺さった人のなかで、合格したのはあなただけでした。
広い視野こそ魔法使いの基本です。
精進なさい。

ファノン、ヴィミ、行こ。
二人が本気でキョトンとなる。
どこへ。
合格式典。
あんたらも出る権利あンだよ。
だってあんたら、あたしの“側”なんだから。
まだ二人はピンときていない。
鈍いなあ。

あたしら/
三人で/
合格したんだよ/

ヴィミが先に気づいて、

ファリハ

と言い、続いてファノンも

ワオ

と言った。
そして二人、揃って言った。

合格だあ!!


あたしが杖を振ると、二人にも、あたしのとよく似た黒マントが翻った。
合格者を示す漆黒の大マント。
もちろんあたしのが一番大きいし、一番かっこいいんだけど。



ヴィミの魔法が失格後もそのままなら、ファノンのも効いてるはずだ。
美由。
立木。
桜井。
どこでだかはわからない、いつまでかもわからないけれど、きっと三人は、いや少なくとも立木は幸せになれる。
願わくは、三人とも・・・


秋色の風の中、あたしは少しだけほほえんだ。
風にはかすかに冬の匂いがした。
ほんのかすかに。

                完

それでも地球は回っている