病む父母と魔と神と。〔Kだったあなたに捧げます〕


よりによって今の今コロナ。
父も母も。
私はおそい子で。
ひとり児で。
どっちもいま、小康で、しかも別々の病院にいる。

俺はどっちに行けばいい。

俊!
どうしてここだとわかったの?

おまえが困ってる時はちゃんとわかる。
どっちへ行く。
お父さんとこか。
お母さんとこか。

えっと・・・

父さんは持病がある。
しかも動きたがる。
あたしがついてないと・・・

でも母さん、誤嚥とかしやすい。
いまの体調で噎せたら一巻の終わりだ。
ああ
ああ
ああ

いっそ一方に絞ってしまえ。

え?

あたしは驚いて俊をみるけど、俊は何も言ってなかった。
でも声は続いてる。

こどものころ
めちゃめちゃ厳しかったのはお母さんだろ?

お父さんは優しかったわけじゃない。
君に関心がなかっただけだ。

やめて!

せめて男の子だったら・・・

やめてったら!!

叫んだら、俊はとても驚いた顔をしたけど、

だからどうする?
どちらか一方選べばいいんだよ。

と、事もなげに言った。

気づいた。
あたし俊なんて幼なじみいない!
両親のどちらかを託せる幼なじみも、どっちかに絞れって言う幼なじみもいない!!

そうなんだよ。
でもどっちかは選ぶだろう?
『自分のために』。

俊の美しい、でも酷薄な顔が、私の視界に大写しになった・・・・・・・






あたしを連れてって

ってさ。
言ったんだよあの娘(こ)。

俊と呼ばれていた男は、つまらなそうに言った。
かれによく似た女が黙って頷いている。

つまんねーよ。
葛藤もしなかった。

まあそう言いなさんな。
むりだって私言ったでしょ?
天使の翼が混じってる子だもん。
そんな簡単に二択しないよ。

次はもっと粗悪品引いてやる。

そう言って俊~と呼ばれた男~は、大きな黒翼を広げて舞い上がる。
無駄だと思うよー。
もう残ってる人類は380人だもん。
たいていの子にはこれ入ってる。
そう思いつつ、女は自分の翼を一枚引き抜く。
混じりけのない純白の。
善を宿した羽。
ここまできて、やっと人類は善良に戻った。
戻ったのに。

380人。
190対ではねえ・・・

滅びの決まった生物は、多少番っても運命は変えられない。
二親から、一人のこどもでは、種を存続させて行くには全然足りないのだ。

それでも・・・

女は彼らを見ている。
退院する父親と母親を気遣いながら、タクシーに乗せているあの娘を。
その頬には確かに、生の喜びが輝いていた。

それでも地球は回っている