ナイアガラ

※ そういうシーンはありませんが、女子恋ものです


那月の章


         一

F女子に合格してほしい。
あたしもしたい。
母子の利害が合致して、ミリさんが再びうちに来るようになった。
以前は中二から中三終わりまで。
彼女のおかげであたしは、志望校に合格できたのだった。
またミリさんから学べる!
それは本当のご褒美。
ミリさんは賢いだけじゃなく、めちゃめちゃ優美なんだ。
年はあたしより四つ上。
しなやかなセミロングの直毛、白い肌、大きな目。
身長は、あれからさらに伸びて161。
ま、私より16センチも小さいけど。
いくらバスケ部だっていっても、あたし、大きくなりすぎちゃったなあ。
大女嫌いかなあ、ミリさん…


こんなこと嘆くのには、もちろん理由がある。
だってあたし、ミリさん大好きなんだもん。
それもLIKEじゃない。
LOVEだ。
しかも一回玉砕してるのだ。

それは中三の終わり。
目標の高校に晴れて合格できて、あたしは万能感満ち満ちてた。
絶対相思相愛だって。
自信たっぷりに、ミリさんに告白したのだった。
けど。
二十才直前のミリさんは、あくまでもあくまでも大人だった。


あなたの年頃は、恋に恋しがち。
せっかく共学校行くんだから、男の子もちゃんと見て、ちゃんと自分の心もみつめて。


粉々の、大玉砕だった。
それでも、あれから二年半。
あたしもオトナになっている。
(作者注・なってない。絶対なってない)
今度こそミリさんを、あたしの魅力でGETするんだ!!!


と、誓ってはみたのだが…

         二


初日から、ミリさんはあたしに釘をさしてきた。


私彼氏いるから。
私あくまでもカテキョーだから。
そこんとこ、絶対間違えないでね。


釘。
ならなんで来たの?
わかってる。
この人は教え方がとても上手。
それだけ…


成績はぐんぐん上がってく。
F女なんかやめてお茶女とか津田塾とか受けない?と、進路指導が甘い声を出してきはじめたけど、ミリさんパワーに浮かされてるだけだから、あたし。
ミリさん去ったらきっとまた落ちてく。
ミリさんがいてこそのあたし。
ミリさんに認められたいだけ。
それがあたしの本性なんだ。
ミリさん…


どーしたんだ那月?
そんな那月、那月じゃないぞ!


タマチ。
田町いく子。
あたしの親友。
女子サッカー部の副キャプテン。
なるほど、チーム仕切るの当たり前って思えるだけある、見事すぎるスポーツマン筋肉のありったけであたしをかき抱いてきたが、あたしにはそれは痛いだけだった。
どうせ抱き締められるなら、ミリさんがいい。
ミリさん…
タマチの優しささえ、今のあたしにはつらいだけなのだった。

部活の自由参加~三年だもの、もはや強制参加ではない~バックレて、早めのバスで帰途につく。
過ぎゆく街並みを見るともなく見てると、あろうことか街角に、ミリさんが、若い男と一緒にいた。
なにやら言い争ってる。
乗車予定者もなく、降車ボタンも押されなかったので、風景は後方へ流れていった。
ミリさんは泣いていた。

今真横で私の筆記の採点してるミリさんは、泣いてないし、目も泣き腫らしてはない。
でもあの男の前では泣いていた。
そんなに好きなのか。
泣き顔見せれるほど。
いらってした。
手首つかんだ。
気づくとあたし、ミリさんを自分のベッドに押し倒していた。


バカなことはやめなさい。
他の先生と交代するわよ?


少しだけ、怒気を含んだ声。
ミリさん!ミリさん!ミリさん!あたしは…


なにも言えないまま、あたしはミリさんを解放した。

だーから何でそんな萎んでんの!


タマチの平手があたしの背中に炸裂する。
サッカーは足とでこだろう?
何でそんなに腕力つおい。
ふと思い出す。
タマチ、キーパーだ…


何でもない。
古い恋が疼くだけ。


もしかしてあの、中学時代のカテキョー?


な、何でそんな話覚えてる!?


だってこの話、あたし等仲良くなったきっかけじゃん。


そうだった。
せっかく志望校入ったのに、ドヨンだったあたしに、何で何でと絡んできたのがタマチだったのだ。
以後この悪縁は続いて…
部活も違う、コースも違う。
なのにこうしてダベってる。
あたしの悪友、親友…


でもって那月はまだその人が好きなんだ。


うん。
好きだ。
前好きだったからじゃない。
前は見上げる存在だった。
今は…
小さくはかなく感じる。
守ったげたい!


叫ぶように言ったあたしに、タマチはただ笑んだ。
お姉さんみたいな笑みだった。


         三

言葉に出してみたら、自分の気持ちがはっきりわかった。
あたしは学校事務に早退届を出して、systemに向かった。

system。
ミリさんのバイト先。
今一番勢いのある、家庭教師型進学教育支援機関だ。
ミリさんはここ6年間最優秀カテキョーで通ってる。
そしてカテキョーである限り、あたしの想いは叶わない。
だって生徒は守るべき宝だから。
だから私はミリさんを

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