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【超短編】右手の希望

はじめに

色々あって整理することにした「エブリスタ」
そこで書いて投稿した作品をnoteに残すことにしました。
テーマは「当たり前じゃない日々に希望を託したい」
こちらはかなり重いテーマとなっております。
また当事者にとっては辛い気持ちを思い出させてしまうことになるかもしれません。
どうぞご興味のある方、読んでくださると幸いです。
思いのままに書き連ねましたので、誤字脱字表現のおかしさ諸々がありますが、
大目に見てください(笑)

本文

昨日退院をした。
今日の空は残酷なほど澄んだ水色。飛行機雲がくっきりとラインを残す。
りさは、空に還っていったんだ。

なのに・・・。

思わずネットを見てしまう。某芸能人夫婦の赤ちゃんが空に還っていったと報じられている。
(この人も私と同じ気持ちだろうな)

産院の待合室で、まさに今、絶望の淵に立たされている。そんな自分とは正反対に、幸せそうに赤ん坊を抱っこしていたり、大きいお腹をさすりながら夫らしき男性と談笑する人たちを見ていると、崖っぷちに立たされ、あと一歩で真っ逆さまに落ちていきそうだ。
(どうして私だけ・・・)
あの時仕事を休んでいれば。もっと葉酸をたくさんとっていれば。もっとお腹の赤ちゃんに声をかけてあげられたら。キリのない「たられば」が次から次へと出てくる。

「そうか・・。でも大丈夫。次があるって」「子どもは授かり物っていうしね〜」
双方の両親からの慰めの言葉。決して責められているわけではないのに。心の傷がさらに深く切りつけられたようで痛い。

ある日のこと、いつもは無口な夫が曇りのない澄んだ目でこう切り出した。
「りさはね、探し物を取りに戻ったんだよ。覚えているかい?検診であの子に会う度に必ず右手をにぎり締めていた。何か大切なものを離さないよう一生懸命に。この間の検診の時から思っていたんだ。うん、間違いないよ。僕たちのところにりさは必ず戻ってきてくれる。それまで自分たちも探しに行こう。ふさわしいプレゼントをね。」
「うん」
まだ崖っぷちから一歩も動けそうにない。この人やりさのためにも、前を向かなければという気持ちを必死にたぐり寄せる。
ふと外を見る。藍色に染まった冬の空は一層、心も体も冷たくさせる。
私に春はいつ来るのだろう。

あれから二年後。

(カチャカチャ)
(ピッピッ)
「〇〇さんこれ戻しておいて〜」「先生、ここに置いておきますね」
半分眠たいような意識の中で、私はこの時を待っていた。私たちの為に色んな人たちが行き交いしているのが、肌を通して伝わってくる。
夫が手を握ってくれている。二人とも汗でぐっしょりだ。
「お母さん聞こえてる?もう少しで会えますよ」

「ギャーああああーーー」

待ち望んでいた瞬間。この手で抱きしめられるという喜び。ようやく崖っぷちから安全地帯へと戻ってこれたのだ。
「おめでとうございます。よく頑張りましたね」
夫の顔がびしょ濡れだ。ちょっと笑えてしまう。
「よく・・頑張ったね。ありがとう。お母さん」
「うん。ありがとうお父さん。・・ねぇ。この子の右手を見てみて」
「ふふふ(笑)・・・言った通りになったろ」
「この子がりさ、かしら」
「うん。この子は『りさ』だ。」

りさは間違いなく、探し物を握りしめて戻ってきてくれた。私たちのところに。今度は放さないと言わんばかりに、その右手で、自分の片割れである妹の手をぎゅっと握りしめていた。
もう大丈夫だよ。これからは私たちが守ってあげるからね。
姉のりさと妹のあさ。私たちの愛おしい宝物。
「双子の子育ては大変よ〜」
一足先に双子ママになった親友の言葉を思い出しながら、この二年間を想う。

生まれてきてくれてありがとう。

ベランダの竿に掛かっている二人への大切なプレゼントたちが風に吹かれて泳いでいる。さあまだまだ洗濯物はたくさん。あれっ、また泣いてる。お腹が空いたのかな。早く二人の泣き顔を見にいかなくちゃ。

空はあの日よりも一段と澄んだ水色が広がっていた。

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