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モデルになって捨てたもの

求められる場所で頑張りなさい。この言葉の意味を、モデルになってから身を以て実感しました。

そもそもモデルを目指そうと思った当初は、パリコレに出たい!ただその一心で頑張っていたように思います。けれど私のモデル人生では、意識すればするほど「パリコレ」の文字は通り過ぎて行きました。

◆1度目のチャンスはNYで

私が初めてその舞台に近づいたのは、NYコレクションの最中。NYの街中を1日10本ものキャスティングを抱えて歩き回る中、事務所から突然「今からここに行ってほしい」という連絡をもらいました。

それは有名なショーディレクターによるキャスティング。目的のビルに着くと、少し緊張した面持ちのモデルが1人、入り口の前に立っていました。ドアの開け方がわからないと言う彼女と、結局どうやって中に入ったのか覚えていないのですが、気づくと数名のモデルと一緒に控え室にいました。後からわかったのですが、それは限られた新人モデルだけを集めた、とても小規模なキャスティングでした。そしてその中には、同じ事務所のカナダ人モデルもいました。

時間になると、1人ずつウォーキングをするように指示されます。

私の番。「もっとメンズみたいに歩いて」「足をクロスさせないで」「ナチュラルに」などと、歩いている最中にディレクターである彼女からいくつかの注文が入ります。すぐそばで待機しているモデルたちが、緊張感を漂わせながらじっとこちらを見つめているのも感じます。

どのくらいの時間が経ったのか…集中と緊張で時間感覚が覚束なくなったまま、だだっ広い部屋の中を何度も何度も往復しました。その場で結果が言い渡されるわけでもなく、正解のわからないまま、果たして自分に可能性があるのかもわからないまま、ただひたすらに歩いた時間でした。他に覚えていることといえば、合間に同じ事務所の彼女がやたらと話しかけてきたことくらいです。

後日。事務所からの連絡で、ロンドンで行われるキャスティングに参加することが決定しました。先日の小さなキャスティングは、NYから連れて行くモデルを選別するためのプレキャスティングで、それを通過した今季の新人モデル10名が世界各国から集められ、ロンドンの地で最終判断をされるとのことでした。

受かればそこから数週間に渡ってロンドン・パリ滞在、そうでなければNYにトンボ帰り。最低限暮らせるようにとスーツケースに荷物を詰め、8時間もの時間をかけてヨーロッパへと飛び立ちました。

朝。迎えたロンドンでのキャスティング。

集まったモデル10名が、1人ずつ別室に呼ばれます。部屋に通されると、そこにはNYで会ったディレクターと、初めてお目にかかるデザイナーの姿。デザイナーから鋭い眼差しを向けられながら、絨毯が敷かれた小さな部屋の中を、部屋の角に座る2人の女性に向かって歩きました。

その時間、わずか10秒。

前回同様「もっとこうしてほしい」という要望があるのかと思いきや、何も言われずにあっけなく終了し、控え室に戻されました。

全員が歩き終わった後、控え室にディレクターが入ってきます。名前を呼ばれた人は即帰宅になるのですが…残念なことに、「AMI」という音がはっきりと聞こえてしまいました。ロンドンの滞在時間はわずか数時間、大きなスーツケースと共に、私はNYへと戻りました。

NYへ戻ると、同じモデルアパートに滞在していたカナダ人の彼女が早速話しかけてきました。どうやら彼女は、プレキャスティングの段階で私が受かりそうだと感じていたらしく、結果が気になっていたようです。「落ちたよ」と返したとき、私はそこで改めて自分の結果を認識し、初めて胸をえぐられるような感覚に陥りました。初挑戦が驚くほど簡単に終わってしまったことがショックで、かといってこの気持ちはどこにもぶつけられなくて…1人もやもやとした気持ちを抱え続けました。

これが私のパリコレ初挑戦です。てっきりパリに行った際にキャスティングがあるのかと思っていた私は、NYで突然やってきたチャンスを掴みきることができませんでした。

◆2度目はシカゴにいた

その頃NYを拠点にしていた私は、2月の寒い中、週に2.3日はシカゴの撮影スタジオにいました。2週目の撮影が終わってすぐだったと記憶しています、マネージャーから再撮影の連絡がきました。髪型を変えてもう一度撮りたいものがあるから、来週またシカゴに行ってもらうことになりそうだ、と。再撮影分もギャラは同じ金額が出るし、特に他に仕事も入っていないということで、事務所と相談し、その仕事を引き受けることにしました。

そうして次の週、シカゴに行ってすぐ、今度は別件で連絡がきました。昨年一緒に仕事をした雑誌の編集長から、〇〇のショーへ出演の打診がきている!と。

しかしよく聞くと、本番日がシカゴ撮影最終日の翌日。場所はイタリアのミラノで、ここからはかなりの距離がありました。

そして当たり前ですが、いくらそのショーに出たいからと言って、今やっている撮影をキャンセルして行くわけにはいかない。。けれど、こちらの撮影を終わらせてから急いで向かったとしても、着くのは本番の2.3時間前。それ以前に行われるであろうフィッティングはできないし、リハーサルにも間に合うかどうか…。

マネージャーと相談し、ショーのクライアントに撮影の仕事が入っていることを説明、それでも私を起用したいと言ってくれるなら、ギリギリでも向かおうとなりました。

しかし、しばらくして返ってきた返事は、それだったら「今回はナシで」というもの。そりゃそうだよね…フィッティングできないし、そもそもヘアメイクをする時間に間に合うかどうかも危ういほど、余裕がない。もし飛行機が遅延でもしたら、終わり。。

せっかく巡って来た機会だったのに…もしかしたらこのショーに出たら、次は長年の夢だったパリコレにも出れるかもしれない…!それくらい希望の詰まったショーでしたが、ものの見事に一瞬で流れていきました。

◆3度目は日本

コロナになって海外で仕事をする機会もなくなっていた頃。仕事が減っていく中、私は東京にいて、どうにかモデル業を続けていました。

そんな中、思いもよらないところから声がかかります。それは、日本のブランドからのパリコレ出演の依頼でした。いつもはパリでショーをやっているけれど、この状況ということで多くのブランドが映像作品に切り替えていた時期。そう、打診されたのはショーではなく映像作品への出演でした。

普段の仕事でも映像を撮ることが増えていたとはいえ、それはスチール(写真)メインのものにプラスαで付いているようなもので、動画をメインとしてやることは滅多にありませんでした。ほぼほぼ決定するだろうというマネージャーの話に半信半疑になりつつ(今までこういう状況で決まらないことが多かったため、もはや信じられなくなっていました笑)、フィッティングに向かいました。

フィッティングで落とされることを多く経験してきた私は、会場に着くといつものオーディション通り、緊張感を保っていました。しかし、その場の空気が普段とは違う気もする…?そんなことを感じ取りながらも、せっせと服を着替えます。この靴を履いてバレエをやっているときのように歩いてみてほしい、などと本番を想定させるような動きもしました。

本当は、顔見知りのフォトグラファーも画面越しにいて(当時の状況もあって、撮影チームはZOOM対応でした)、いつもの気負っていない私も出したかったのですが、そういう自分を見せて落ちてきたこともあると思うと、どうしても緊張感を捨て切れませんでした。そんな心の葛藤をしつつ、フィッティングはつつがなく終わりました。そして後日、正式に決定したとの連絡が来たのです。

本番日。一瞬を切り取る作業であるスチール撮影とはまた違った難しさを感じたり、初めて経験する大きなセットの中で、1人ポツンといなければいけないプレッシャーに不安になったり、いつもとは違う撮影に戸惑うこともありましたが、周りにたくさんサポートしてもらい、どうにかやりきることができました。終わってみればあっという間の1日で、私の絵と他のモデルさんが撮った絵がどういうふうに組み合わされていくのだろうと思うと、疲れの中でも楽しみが大きい撮影でした。

多くの人の手によって出来上がったその作品は、思いがけず私のダンス経験も活かされた、心に残る、とても素敵な作品になりました。

映像作品ということで、実は普段のショーよりも多くの人、特に身近な人に見てもらえたように思います。そして、実は段々とショーに苦手意識を持っていた私にとって、得意分野である撮影の方で出演を果たすことができたのは、結果的にはとても良かったし、もしかしたらこの為に今までショーを歩かなかったのかもしれないと思うくらいでした笑

もう縁のないと思っていたパリコレに、こんなところで出れることになるとは…!実は、これが自身のパリコレ初出演になるということに気づいたのは、映像が公開される2日前のことでした。それくらい、もう絶対に自分の人生にはないものだと思い込み、忘れようとしていました。

今いる場所で、自分なりにできることを最大限やっていくと、気づかぬうちに、当初の目標に近づいていくのかもしれません。一直線に目指してみて上手くいかなくても、回り道しても、時間がかかったとしても、辿り着くことがあるんだと実感した出来事でした。

結果的には、私にとってはこれが最善の道だったのかもしれないと思います。なぜなら、そういった遠回りの経験が、このnoteを作るきっかけとなったからです。

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