「あの経験があるから今の自分がある」なんて言うけれど

社会人一年目の頃のことは、今でも時々思い出す。

そもそも私は就職活動が本当に嫌だった。
「就職活動」にまつわる色々(リクルートスーツ・黒髪・エントリーシートなど全て)が本気で意味不明だったし、自分がなりたいものなんて全く分からなかった。みんな何で行きたい業界ややりたい仕事なんて決まってるのか?働いたこともないのに。本気で疑問だった。(今でも割と疑問)
社会に出るなんて、企業で働くなんて。きっとつまらなくて辛くて楽しいことなんて何もない、毎日が我慢の連続なのだろう。

実際、多くの大人が「学生の頃はよかった」と口にしているのを何度も見てきた。そうなんだろうな、と、思っていた。きっと後にも先にも、大学生の今が人生で一番楽しいのだろうと。
そんなテンションだったので就職活動はかなり苦労し、一社内定が出たところでもう就職活動は終了した。

だけど入社して実際社会人になってみたら、自分がとても悲観的に考えすぎていたんだということに気づいた。


…なんて言えたら良かったのだけど。そんな甘い話ではない。


正直、想像を遥かに上回る辛さだった。社会人、大変だろうとは思っていたけど、こんなに大変だとは。入社後半年間は、間違いなく今まで生きてきた中で1番辛かった。

本当に運が悪かったとしか言い様がないのだが、私についた指導員が最低最悪の人間だった。新入社員のうちは怒られるのはもちろん仕方ない。だけど今考えると、さすがに理不尽すぎる詰め方だった。何をやってもとにかく怒られる。怒られない日はなかった。多くの人たちが見てる前で、毎日毎日大声で怒られて晒されていた。仕事の指摘だけではなく、私自身の人格を否定されるような発言も当たり前だった。しかし社会人一年目。会社とはこういうものなのだろう、社会とはこういうものなのだろう。出来ない私が悪い。指導員の言う通りに出来るようにならない私が悪い。本気でそう思っていた。周りも誰も助けてはくれず、見て見ぬ振りをしていてフォローもなかった。やっぱりこの状況は普通で、私が出来損ないなんだな。そう思うには充分の環境だった。とにかく何をやっても怒られるので、何をするにも怯えていた。そんなだからまた怒られる。会社に行くのは恐怖でしかなかった

たまーに「大丈夫?」とか言ってくる人がいたけど、大丈夫です、と答えるしかなかった。私が出来ないから悪いんです、と答えていた。本気でそう思っていた。

大丈夫じゃないことぐらい、見てて分かるだろう。何とかしろよ、と、今なら思う。でも他人は他人のことになんて興味無いし、面倒なことには関わりたくないのだ。

毎日のように泣きながら家に帰っていた。すると両親には、毎日毎日泣いて帰るな、と呆れられた。そういうテンションでいられるとこっちが本当に不快になる、と。なぜあんなにわかってくれなかったのだろう。だから家にも帰りたくなかった。もう八方ふさがりだった。

とにかくそんな状況だった私の精神状態は限界を迎えていて、どう考えても普通じゃなかった。入社半年が過ぎた頃、家で泣きながら遺書を書いた。会社への恨み、両親への恨み。もし自分に何かがあったとき、それが原因だったと分かってもらえるように。本当に今考えると普通じゃなかった。それほどに、追い詰められていた。

しかし入社して半年が過ぎた頃、私は部署が異動になり、間もなくして全ての元凶になった指導員がグループ会社に出向になっていなくなった。

すると私の生活は、一気に楽になった。

やっと人間らしい生活ができるようになった、やっと呼吸が出来るようになった。やっと生きた心地がした。

そんな最悪なスタートだったけど、数年後にとても尊敬できる先輩二人と仕事をする機会ができて、それ以降私の社会人人生はみるみる好転していった。
「仕事が楽しい」「もっとこんなことをやってみたい」
そんな風に思えるようになった。仕事で結果も出せるようになって、周りの人からの信頼も厚くなった。

結局新卒から約10年ほどその会社に勤め続けた。まさか10年も続けられると思わなかった。言うまでもなく一年目の頃は、「一番最初に辞めそうな人リスト」に入っていた。でも、10年働き続けた。たくさんの同期が辞めていくのも見てきた。


今は私もその会社を辞めて新しいステップに進んでいる。でも、私が最も尊敬していた先輩二人には本当に感謝している。今でもその先輩に助けられることはたくさんあるし、尊敬している気持ちは変わらない。その先輩から学んだ仕事のスタンス、生き方のスタンスは、今の私に非常に大きな影響を与えている。「ジャイ子さんのここがすごいね」と褒められることは大体、その先輩の姿勢から学んだことだ。


あの頃毎日泣いて遺書を書いていた自分には、想像もつかなかっただろう。
(ちなみに遺書は、書いて数年後に破り捨てた。もう不要だ、と確実に思えたときに。)


今、仕事に真剣に向き合うのはとても楽しいし、もっともっと、自分のキャリアを上げていきたいと本気で思っている。

学生生活を終えて最初に入社する会社は、非常に大切だ。
最初に働く人間が優れた人かどうかによって、その後の人生に大きな影響を与える。
だけど、もし最悪な人間たちの下で働くことになったとしても。
周りを見渡して、味方になってくれる人、尊敬できる人、ついていきたいと思える人に出会えれば、劇的に人生を変えることができる。


あの頃の経験があるから、今の私があるんだ。
とは、正直思えない。新入社員一年目のあの死ぬほどの思いをした経験は、本当に必要だったのだろうか?別にいらなかったんじゃないか。今でもよくわからない。


だけど一つ言えることは、
今の自分の人生は、総合してあの頃より何百倍も楽しくて充実しているということだ。
大学時代、「こんなに楽しい時期は今後の人生でもうないだろう」と思っていたその頃より、今のほうが各段に楽しい。


あの頃より、自由な時間は限られているかもしれないけど。
あの頃より果てしなく世界は広がっているし、自分の能力と経験値が上がっている。周りを取り囲む人間関係や環境も、格段に良くなっている。自分で言うのもなんだけど、すごく魅力的な人間になれていると思う。


社会人一年目、生と死の境をさまよっている自分へ


「私、今、人生で一番楽しいよ。」






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