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「在外邦人なんでも1000」No.004 ラーメン屋で寿司を注文

これは、神田英明氏が発行するニュースレター「在外邦人なんでも1000」のバックナンバーです。
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今から30年前、初めて私が観光で渡独した日の出来事です。夕方ミュンヘン空港近くの小さな町のホテルにチェックインし、夕食にと外に出て駅前に一軒だけある料理店に入りました。ヴルスト(ソーセージ)を食べたいと伝えましたが、「残念ですが、ありません」との返事。それどころかシュバイネブラーテン(焼き豚)もシュニッツエル(カツレツ)も「ありません」という、つれない返事ばかりです。仕方がないのでその場は店のオススメの肉料理を注文し、ふと周りを見渡して、事情が判明しました。店内はビーナスを始めとしたギリシアの彫刻や絵画で飾られている、なんとここはギリシア料理店だったのです。ドイツにある店はドイツ料理店との思い込みは怖いものです。あたかもラーメン屋に入店して、寿司や天婦羅を注文している様な変な外国人になっていました。

話は変わりまして、新型コロナ禍に見舞われた2020年は特に、「滞在許可証」の延長に関する質問や問い合わせが日本国内の在外公館(大使館・総領事館)に殺到しました。しかし、大使館からの返事は「滞在許可については現地の外人局に聞いてください」というつれない内容ばかりです。多くの情報を掴んでいる筈なのに、なんて不親切な回答なんだと思われた方もさぞかし多かったでしょう。しかし、実はこれ、ラーメン屋で寿司を注文するくらい的外れな事なのです。

どうしてでしょうか?

その答えは、日本国内にある在外公館(大使館・総領事館)は「査証(ビザ)」は発行しても、滞在許可証の発行は管轄外だからです。両者は、その目的も担当部署も異なる別物です。

イ 査証(ビザ)=「入国」許可証
(※なお、「査証・ビザ」の概念は、国やその時代によってズレがあります(大使館のHPレベルでも統一していません)。ここでは一部で言われている意味で説明しますのでご了承下さい。)
査証(ビザ)は、渡航国にある公官庁、あるいは、日本国内にある在外公館(大使館・総領事館)に事前申請して審査を経て発行してもらう、「入国」許可証です。

それぞれの国が、自国の安全を守る視点から、入国希望者の身元を事前審査するものです。「査証(ビザ)」はあくまで国境を越えて「入境」することへの許可であり、その地での「長期の滞在」を許可するものではありません。
査証(ビザ)を所管する部署は各渡航国の外務省(あるいは内務省や州政府など)となります。

ロ「滞在」許可証
入国後の次のステップとして「滞在」許可証が登場します。「○○目的で」という条件付きで「あなたはわが国に○○日間滞在できます」という形で許可されます。
その者の長期滞在を認めることが自国にとって必要かつ有益かという視点から、滞在目的(留学、就労、結婚その他)、及び、納税や社会保険料の支払能力、過去の実績その他を総合判断して、滞在許可証の発行や延長が相応しいか否かを決定します。

「滞在」許可証を所管する部署は現地の外人局(法務省や市役所ほか)になります。

両者は混同されがち
ありがたいことに、日本国籍者は、有効な日本国籍のパスポートを持っているだけで、査証(ビザ)免除の取扱いを受けられるケースが多いです。日本国籍者であること自体が、あたかも「推薦状」のようなもので、日本人は大学入試を受験せず「推薦状」だけで推薦入学させてあげます、つまり、有効な日本国パスポートを提示するだけで入国許可してあげます、というイメージです。
このように日本国籍者は査証(ビザ)取得に関しては恵まれているために、査証(ビザ)について深く考える機会がなく、滞在許可証と査証(ビザ)を混同しがちです。
ところで、航空会社の担当者や、入国審査の担当者が各国の事情に詳しいとも限りません。

ラーメン屋で寿司を注文しないため、のみならず、将来の家族の留学を含め、トラブルに巻き込まれないためにも、査証(ビザ)と滞在許可との違いを、それぞれの目的(制度趣旨)から改めて考察しましょうというお話でした。

「なんでも1000」No.014>「在外邦人なんでも1000」No.004 

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神田英明(民法学者・東京弁護士会弁護士)

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神田英明氏のプロフィール

民法学者(明治大学)、弁護士(東京弁護士会)、法曹教育の第一人者(司法試験首席合格、20歳合格者を輩出)。教え子弁護士が全国各地に100人。
自身の海外経験をもとに、遺産相続に関するミュンヘン講演(在ミュンヘン日本国総領事館後援)や「親が認知症になる前にすべきこと」のフランクフルト講演、「脳が喜ぶ勉強法」という教育に関するデュッセルドルフ講演、さらには国をまたいだ往来が気軽にできなくなった状況をふまえ、世界規模でのzoom講演(「日本にいる老親のためにすべきこと」など)を開催中。
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