カジュアル読書会『二重国籍と日本』(8月30日)開催の報告

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*目次

1、準備としてのチラシ
2、参加者たちの知りたい事
3.『二重国籍と日本』
4、読書会当日の進行
5、イベント開催後の反省
6、パネラー発表 1「台湾関係者」として引っかかる点
7、パネラー発表 2「第7章国籍法の読み方、考え方」を読む
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1、準備のチラシ
【ZOOM】カジュアル読書会 『二重国籍と日本』       
  国籍問題研究会編 (ちくま新書/筑摩書房)
 (電子書籍770円、紙書籍902円)
  
◆事前準備のヒント
*本を購入して読む  
*書評を読む
 ①「書評わたしのおススメ『二重国籍と日本』」(会報「AMFデジタル3号」)
 ②アマゾンのカスタマーレビュー
*準備できない、でもちょっとのぞきたい場合も歓迎、としました。

◆パネラー募集しました
当日は数人のパネラーが本を中心に話し合い、肝心なところは専門家にご意見を聞く形にしました。

◆申込み方法:会のメルアド amfofficialinfo@gmail.com にメールをもらい、折り返し【申込フォーム】をお送りしました。

2、参加者たちの知りたい事 (コメントまとめ)

◆パネラ―として参加希望の方
   *国籍剥奪に関する裁判の行き先。
    国籍とナショナリズムの関係について。
   *今後の見込み、日本政府が目指している方向性

◆視聴者として参加希望の方
*二重国籍回避への疑問
*複国籍容認のための運動への疑問・効果
* 子どもの二重国籍の維持、使い方
* 子どもが国籍法11条1項で国籍喪失したケース
* 国籍法11条1項についての疑問

3、『二重国籍と日本』
   【目次】
序章 大坂なおみ選手が直面する国籍問題
第一部 蓮舫氏問題を考える
 第一章 メディアの迷走
 第二章 あらわになった国籍法の矛盾
 第三章 国際結婚と国籍
 第四章 日台ハーフの中華民国国籍
第二部 国籍と日本人
 第五章 日本国籍の剥奪は正当なのか
 第六章 国籍をめぐる世界の潮流
 第七章 国籍法の読み方、考え方 
終章 国籍に向き合う私たち
あとがき

4、読書会当日の進行 
1)全員で「終章」を読む
2)パネラーの発表  
   〇発表1 「台湾関係者」として引っかかる点 
   〇発表2 「第七章 国籍法の読み方、考え方」を読む
3)ディスカッション    
4)仲晃生弁護士によるまとめ

5、イベント後の反省など
*オンラインイベント《国籍法シリーズ》として系統立てることにし、今回を初回とした。
次回は11月1日(日)近藤博徳氏講演の予定(追記:期日変更になった)。

*読書会形式にして、参加者の自発的な行動を狙ったが、あらかじめ本『二重国籍と日本』を読んだ参加者はあまりいなかった、という印象を受けた。

*読書会としては、時間を細かく区切ったため、慌ただしい進行となった点は反省したい。

*時差があるため、全世界からの参加には無理がある。
 今後の課題。

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6.
パネラー発表 1
「台湾関係者」として引っかかる点
         2020年8月30日 LiuK
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(レジュメ内容)
本(第一部)の感想
 日本の国籍選択制度運用のいいかげんさに驚かされた。
どちらが本当ですか?
(1)「台湾籍保有の日本国民」につき、中国の国籍法を・・

・野嶋)第1章 p35
「国籍事務において、台湾出身者の人に中国の法律を適用していない。」
   (法務省:2016年9月15日)
    ⇅
・岡野)第4章 p113
「(日台ハーフの子について)日本側として日本と中華人民共和国の国籍法を参照する
   (神戸法務局:2018年7月)

(2)台湾の籍を持っている日本国民は、国籍法上重国籍扱いか?

・野嶋)第1章 p43
台湾出身の重国籍者については・・(選択義務がある)」
   (金田勝年法相:2016年10月18日)
    ⇅
・大成権)第3章 p86
「日本側から見ると、台湾の国籍では「外国の国籍を有する」
 とはみなされないので、日本国籍一つだけであり、それ故
「国籍選択届」は提出不要」
   (広島法務局:2018年4月)
・岡野)第4章 p114
「日本は「日台ハーフ」を日本の単一国籍者とみなしている。」
   (神戸法務局:2018年7月)

謎解きのカギ?
※小田川)第2章 p52
「本人の申告に基づいて届出を受け付けています。」
「明らかに外国籍を有しない、つまり、日本国籍しかないと いう場合を除いて届出を受けています」
   (2017年8月 法務省民事局)

説明は一貫していない
※選択制度への賛否以前の問題
 十分理解・納得できない手続きは、うかつには行えない
 義務を課す側である法務当局こそが説明責任を尽くすべき

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(報告内容)
 皆さんこんにちは。台湾・台北市からパネラー参加させていただいております、Liuと申します。「「台湾関係者」として引っかかる点」と題してお時間を頂戴しました。
 「台湾関係者」というと大げさかもしれませんね。私の身近には、日台国際結婚のご夫婦が何組もいます。親族にもおります。お子さんは生まれながらに日本と「台湾の籍」を両方持っていることになりますが、そういうお子さんたちがですね、4年前の例の蓮舫氏騒動以来、ずっと不安をかかえてしまっている。どうにかして、その不安を解消してあげたいと思ってきた。それくらいの意味での「台湾関係者」です。

 今日のタネ本「二重国籍と日本」は重国籍問題の方面から「台湾の籍の扱い」について、正面から取り上げた、という意味ではおそらく初めての本かと思います。私は、台湾に関係する「第一部 蓮舫氏問題を考える」を、特に関心を持って読んだのですが、感想を一言で言いますと「日本の国籍選択制度の運用のいいかげんさに驚かされた」ということに尽きます。

 その辺の話をしたいとは思いますが、本日の読書会の趣旨から言って、台湾の特殊な扱いに深入りしすぎても、皆さんの興味の対象外となってしまうでしょう。そこで私からは、本書第一部の「間違い探し」と言いましょうか、本書の文面をなぞれば、整合性がないことがすぐわかるような箇所を見つけて共有したいと思います。
 「間違い」といってもこの本の著者の方々が間違っているという意味ではないので誤解しないでください。著者の方が聞いた法務省や法務局による話、それぞれの間に、矛盾や食い違いがあるという意味です。お役所がこういう、ある意味、いい加減な対応をするんだ、というところに注意してみたいと思います。
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 では、本題です。
 私自身、本書を最後まで読んで「結局どっちなの?」と思った点がいくつかありますが、主なものを二つ、レジュメに書きだしてみました。「どちらが本当ですか?」とあるところです。

【一つ目】 台湾の籍をあわせ持つ日本国民に、日本側の扱いで、中国(中華人民共和国)の国籍法がかかわってくるのかどうか?

 この点、ジャーナリストの野嶋剛さんは、第1章 のp35で「国籍事務において、台湾出身者の人に中国の法律を適用していない。」
と2016年9月(15日)に法務省から説明があったことを書いています。これは当時、日本で広く報道されましたね。

 では、この話はこれで確定、なのかと思いきや、研究者の岡野翔太さんが書かれた第4章、p113には、日台ハーフについて「日本側として日本と中華人民共和国の国籍法を参照する」と2018年7月に神戸の法務局から説明されたとあります。

 ・・・えーと、これ、どうでしょう。全く逆の説明ですよね? そして結局本書の最後まで読んでも、どちらの説明によって考えるべきか結論が出ていないようです。

 もしかして、これは霞が関の官僚言葉では「参照はしているが適用はしていない。」などと、とんちみたいな話になるのでしょうか? そういえば少し前、「募ってはいるが募集はしていない」などという発言をされたエライ政治家もいらっしゃいましたから、そういう詭弁が絶対ないとも言えないかもしれません。日本語は難しいです。・・・まあ、とはいえ、常識的範囲で考えれば、これは「矛盾」と言い切ってよいでしょう。

【二つ目】
 台湾の籍を持つ日本国民は、日本の国籍法上重国籍扱いなのかどうかについて、
 野嶋さんの1章p43には、「台湾出身の重国籍者については・・これこれしなければならない、つまり義務がある」と、2016年10月(18日)に当時の金田法務大臣が説明したとあります。なんかこれを読むと、いかにも当然に、重国籍者、義務対象者としてあつかっていますよ、というような説明ぶりです。大臣が言うのだから、それで、決まりか?と思えば、

・大成権さんによる3章 p86には「日本側から見ると、台湾の国籍では「外国の国籍を有する」とはみなされないので、日本国籍一つだけであり、それ故「国籍選択届」は提出不要」とあります。2018年4月の広島法務局での説明です。

・また岡野さんの第4章、 p114には「日本は「日台ハーフ」を日本の単一国籍者とみなしている。」とあります。これは2018年7月神戸法務局での説明です。

 これも明らかに真逆の説明をしています。まあこれも、官僚言葉で
「台湾出身だろうとなんだろうと法律上の『重国籍者』だというならば選択義務対象だよ(但し、台湾の籍を持っている日本国民がみんな直ちに『重国籍者扱い』というわけではないよ)」とでもするような、裏の解釈があれば両立するかもしれません。でもまあ、普通に素直に読み取れば矛盾でしょう。

 「台湾の籍を持つ日本国民」という、全く同じ立場の人なのに
・ある人は重国籍者で手続き義務違反かのように言われ、
・ある人は、単一国籍扱いだから手続きしなくていいと言われる。

 法律の手続きなのに、ここまで正反対の話が出てくるというのは、いくらなんでもいい加減すぎるだろうと。「法の支配」と言う話では、法は「一般性」がなきゃいけないとか耳にしますけど、素人考えですが、この辺を見ると、そういう原則どこ行っちゃったの?という気がします。

 このように全く正反対の取り扱いがまかり通ってしまうというのは謎ですが、その謎解きのカギ?になりそうな部分を見つけました。
 弁護士の小田川先生による、第2章52ページです

 (日本国籍の取得や喪失が問題とならない場面についてとあります。国籍選択届は正にこれですが)「本人の申告に基づいて届出を受け付けています。」「明らかに外国籍を有しない、つまり、日本国籍しかないという場合を除いて届出を受けています」と、これは2017年8月に法務省民事局の方が、小田川弁護士に説明していたとのことです。
 これ、要は、「厳密に言えば法律上の重国籍者にあたらない人」についても、本人が自分で国籍選択届を出してきて、そこに「外国籍を持っている」との記載があれば、国籍選択届を受け付けている、と認めているわけですね。 
 蓮舫さんの場合は、国籍選択届に、自分が保持する外国籍として「中国」と書かされたと言います。
 実務上の台湾籍の扱いで、実は「国籍選択手続き」に関しては外国籍扱いにしていない、そんな実態が明らかになってきて、じゃあ、蓮舫さんの騒動は何だったの?となったときでも、役所側は「あの人は自分で、国籍選択届に「『中国』籍を持っている」と書いて届け出たからそのように扱っただけ」と開き直れるよう、役所側が逃げ道を作っているじゃないか、そのように私は勘ぐっています。
 なお2章71ページでは小田川弁護士は最初の金田法務大臣の「台湾出身の重国籍者について(義務がある)」とする発言について、
※「法務省の従前の立場を前提とする限り間違っていたという結論になると私は思う」とまで書かれているんですね。

 これで、まとめますが、明らかに言えることは、法務当局の説明は、一貫していないということ。法律専門家である弁護士の先生が、特に奇をてらうわけではなく、法務大臣の発言を「間違っていたという結論になると思う」とまで書き切っています。専門家でさえこんな風に意見が割れるような状況です。

 そんなあやふやな話について、法律素人の一般当事者、それも国籍選択手続きとなると、主に20歳そこそこの若者ということになるでしょうけど、そういう青年が自分の義務の有無など判断できるでしょうか?
 もうこれは、国籍選択制度に対する賛否以前の問題です。
 訳の分からない契約書にハンコ押しちゃいけないよ、というのは詐欺にあわないための基本的な心得として皆さんお持ちと思うのですが、そういう心得が身についていれば、こんな訳の分からない制度で、十分理解納得できないうちに、うかつに手続きするなんてことは、気持ちわるくてできません。それでも義務だとするなら、義務を課す側である法務当局こそが説明責任を尽くすべきだろう、というのが私の思いです。
以上です、ご清聴ありがとうございました。

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(想定問答集)
Q1 日本における「台湾籍」の扱いの話になぜ中国の国籍法の話が出てくるのですか?
A1 岡野さんが書いている第4章114ページを見ていただきたいのですが、日台間で選択を迫られて外国籍の方を選ぶ、という選択を考える場合、台湾籍を持っていても、
・「単一国籍者とみなしていますよ」
・「どうしても日本国籍を離脱したいなら中華人民共和国から国籍証明をもらうことができれば可能かもしれない
と言われたとあります。
 日本側でそう扱う話なら、日本側がここで重国籍を問題にしている「中国籍」というのは中華人民共和国が国籍証明を出すところの国籍のことであって、台湾の籍のことではないのでは?とも解釈できます。中華人民共和国の国籍法では、海外に生まれてその国の国籍を取得した場合は、親から中国籍は継承できない扱いですから、仮に台湾籍の片親を「中国籍」とみなすことにしたとしても、日本生まれの日台ハーフの子がその親の「中国籍」を引き継げるわけは無いはずです。そういう意味で中国の国籍法の話が出てきています。

Q2 でも法務省は「台湾出身者に中国の法律を適用していない」と言ったのですよね?
A2 「中国の法律を適用していない」というと、じゃあ、「台湾の法律が適用されるんだろう」と思ってしまいそうですが、実は法務省は、「台湾の法律が適用される」とも一言も言っていません。これは、1章p35をご覧ください。法務省は、「日本の法律が適用される」と、とんちのようなことを言っているのです。
 あと、そもそも日台ハーフの子で日本生まれなら「台湾出身者」という言い方もなんかおかしいですよね。

Q3 自分は、外国人の入国管理行政に知識があります。入管行政では、中国も台湾もどちらも国籍は「中国」として扱われています。そのことから考えると、特に、問題があるようには思えないのですが?
A3 おっしゃるような、「外国人」に対する入管行政の場面では、日本の役所での手続きで、中国当局、台湾当局、どちらの国籍証明書も受け付けられます。台湾当局の国籍証明を出した場合、(2012年から)「在留カード」には「国籍、地域欄」に「台湾」と記載されるようになりましたが、その場合も日本人の台湾籍配偶者については戸籍に記載される際には「中国」、運転免許証のICチップの記録も「中国」と記載されます。台湾当局の国籍証明書をもとにして「外国人の場合」に「中国籍」と記載されることは、なるほど現状その通りのようです。
  しかし、「既に日本国籍を持っている人」が「国籍選択手続き」の一環で、外国籍の保有証明として提出する書類については中国当局の国籍証明書は受け付けるものの、台湾当局の国籍証明書は受け付けられません。これが入管行政とは異なる点です
 Q1でも書きましたが、この立場の人が
・「どうしても日本国籍を離脱したいなら中華人民共和国から国籍証明をもらうことができれば可能かもしれない
などと回答された例があります。こと「国籍選択」の手続きに関しては入管行政における台湾を「中国」と記載する扱いから安易に類推するのは不適切と言えるでしょう。

Q4 でも日本国籍の選択届を出せば受け付けられるのでしょう?なら重国籍でしょう?
A4 (本書から)2章p52の最後から、小田川先生が法務省民事局から説明された内容に、「日本国籍の取得や喪失が問題とならない場合は、外国籍の有無は厳密に判断することなく、本人の主張する『外国籍がある』という自己申告に基づいて国籍選択届け出を受け付けているということだ」とあります。受け付けられたから、厳密に重国籍者に該当するというわけではないのです。
 では、日本国籍の喪失が問題になり「厳密な判断」が必要になるのはどういう場合か?というと、これは「選択で、外国籍の方を選んで日本国籍を抜け」ようとする場合ですね。
 そういう場合には、台湾当局の証明書類を添付しても国籍離脱届は受け付けられない。どうしてもというなら中国の証明を持ってきてください、と言われる。これは、岡野さんの4章114ページに、
「どうしても日本国籍を離脱したいなら、中華人民共和国の大使館で発行してもらってくれば可能かもしれない」と説明されたことが書かれているとおりです。
 「厳密な判断」が不要な手続きでは国籍選択を受け付ける、「厳密な判断」が必要な場合、手続き(日本国籍離脱)は受け付けない、という奇妙な話になっています。

Q5 台湾は国じゃないとか、そういうことを言いたいのですか?
A5 そうではありません。ここで問題にしているのは、あくまでも日本の国籍法の「国籍選択」の手続き場面の話だけです。「「中国籍」をもっていることの「厳密な判断」」として、日本の役所は、中華人民共和国発行の証明書なら認めるが、台湾当局発行の証明書は受け付けない、という取り扱いをしている。
 「中国籍」について日本側がそう言う取り扱いをしていることを知ったうえで、となると、日本国籍選択宣言をするにせよ、日台ハーフが自ら「中国籍」を持つ、と書類に書くことは、疑問を感じる当事者もいるでしょう。外国人の立場の台湾籍者が、台湾当局発行の証明書を示し、在留制度の中で「中国」と書かれるのとは、意味合いが違ってきます。
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7.  パネラー発表 2
      「第七章 国籍法の読み方、考え方」を読む         P.175~198              2020年8月30日  田代純子

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実は予め予定していたパネラーの方の都合が悪くなり、急遽代役を務めることになり、その際この方の課題「今後の見込み、日本政府が目指している方向性」も引継ぎました。これに答えがあるのは第7章では?と考えました。以下項目です。

*生後三カ月以内に届けないと日本国籍を失う
*国のあやふやな態度
*重国籍の発生は避けられない
*重国籍の防止・解消も困難
*重国籍が発生するのはどんな場合か
*重国籍の発生の防止
*重国籍の解消の制度
*重国籍の存続も想定する国籍法
*日本の重国籍をめぐる議論には柔軟性がない
*重国籍はずるい?

1)近藤博徳弁護士が手がけられた3件の違憲訴訟   

〇初めての国籍法関連の違憲裁判
 最高裁で勝訴し(2008年6月4日)、その結果として法改正がなされた。 ⇒結婚していない外国人母と日本人父から生まれた子どもが父親の認知により日本国籍を取得できる(国籍法3条1項)

【注目すべき点】裁判では「もともと外国籍であった子が日本国籍を取るのだから重国籍になる。しかも自分の意思で」ということがまったく論点にならなかった

 〇次の違憲訴訟 ⇒ 重国籍の問題が正面から問われ、国側の主張「重国籍の防止」が認められて最高裁で敗訴。

【問題の法律】日本人の子が外国で生まれ、日本国籍と外国籍を取得した時は、生まれてから三カ月以内に国籍留保届を出さないと日本国籍を失う(国籍法12条)

 〇「国籍はく奪条項違憲訴訟」現在原告弁護団の一員として担当中。
(自分の意思で外国籍を取ると日本国籍喪失につながる法律(国籍法11条1項))「重国籍の防止」が最大の争点。


 2)国のあやふやな態度

   〇「日本は重国籍を認めていない」という前提または常識(?)は何が根拠なのか?
   ⇒現実:重国籍者の存在およそ90万人(法務省推計)
   ⇒疑問:こんなに多くの法律違反者!
       認めていないとされるのに、なぜこんなに発生するのか?

   〇国籍法⇒「重国籍を認めない」という条文はない
       ⇒「重国籍を認める」という条文もない


 ⇒そもそもなぜ重国籍が発生するのか? 以下純粋に法律解釈

3)重国籍の発生は避けられない
     結論:重国籍は避けられない
     理由:各国はそれぞれ、自国の国籍を持つ者の範囲を自由に決めることができ他国による制限を受けない (=国際法上の確立したルール)
        
4)重国籍の防止・解消も困難

     3)を受けて、不可避的・必然的に発生する重国籍を
       防止・解消する方法を探る                                            ⇒できない:一国の法律で重国籍の防止を徹底しようとすると、外国の法律によって自国民の範囲が左右されてしまうことになるから

     ⇒不可避的・必然的に発生する重国籍、となれば、日本国籍法で重国籍を「認める、認めない」という議論は意味がない。

     結論:そう、国籍法は重国籍の存在を認めざるをえないのである。(原文のまま)
                                  5)重国籍が発生するのはどんな場合か
   (多岐に渡るため省略)                                                         【注目:段落の結び】
     届出による日本国籍取得に伴う重国籍の発生は、
     本人の希望で重国籍となることを認めている
。    

6)重国籍の発生の防止
    (略)
      
7)重国籍の解消の制度
     国籍の選択を義務付け、四つの方法を定めている。
     四つ目:日本国籍の「国籍選択宣言」をする方法
      
【四つ目のポイント2点】
       「日本国籍の選択」 
       「外国籍の放棄」

【現実】この選択宣言によって自動的に外国籍が消滅するわけではないので、それだけでは重国籍は解消されないい (原文のまま)       【ここで16条】日本国籍の選択宣言をした者は、外国籍の離脱に努めなければならない、とされている。(原文のまま)

 ⇒強制力のない「訓示規定」あるいは「努力規定」である(原文のまま)
 ⇒理由:本人の意思による国籍離脱を認めない国があるから(原文のまま)                                 ⇒実際 a:日本政府が調査しない以下の点              *国籍の離脱ができる国かどうか
*本人が外国籍の離脱に向けた努力をしているか

⇒実際 b : 外国籍を離脱しないからといって、日本国籍を失うなどのペナルティがあるわけでもない。(原文のまま)

【では15条は?】期限までに国籍選択をしない者に対して、法務大臣は国籍 選択をするよう催告することができ、 催告を受けてから一カ月以内に国籍選択をしないと 日本国籍を喪失する(15条)

【しかし・・1984年~2020年間】選択催告は制度が作られてから、一度も行われたことがない(原文のまま) ⇒ 理由はP190にあるとおり  

8)重国籍の存続も想定する国籍法
    時間的問題のために割愛 

 以下、近藤弁護士の私見も交えた分析

9)日本の重国籍をめぐる議論には柔軟性がない
10)重国籍はずるい?
      時間的問題のために割愛 


仮定は成り立つか?

 仮定「今後の見込み、日本政府が目指している方向性が見えるのでは?」のうち「今後の見込み」は見えた。
 藤氏の担当した3件の違憲裁判の法律うち2件は、明治憲法の下に制定されたものであるが、これについて政府自らの改定の動きが(もしあるとしても)見えない以上、現行法律の維持が現在のスタンスといえるだろう。

しかし、「日本政府が目指している方向性」は全く見えない。

◎結論

 表題「国籍法の読み方・考え方」の示す通り、一般人が法律を理解するには、法的解釈をしてくれる案内人が必要である。マスコミや巷に流布する誤解・偏見に迷わされることなく、法律は理論ではこのようになっているのだと理解し、正しい知識を身に着けることが大事だと考える。

◎パネラーとしての感想
 
 1984年父母両系主義移行時点で理論的に破綻していたと言える政府の建前「法改正で重国籍者が出る。重国籍は望ましくないもの、したがって解消策として国籍選択制度を設ける」は、2020年現在も未だに体裁を保っている。その原因として、日本社会に蔓延している二重国者への偏見、選択制度を世間話のネタにする無責任な人たちの存在を挙げたい。
 選択制度は形骸化しているという意見もあるが、判断に迷う人がいる以上、当事者たちの圧力になっているのは事実。一方で、近藤弁護士も書かれているように、これは「政府が二重国籍を認めている法律」でもある。
 他方で、国民にとって本当に脅威となるのは、知らないうちに国籍喪失につながり、取り返しがつかない法律(11条1項と12条)の存在だと思う。このようなことは、日本人が世界中に住んでいる現実からして、早期に学校教育の中で教えるべき事柄ではないだろうか。
 また、政府に要求するとすれば「重国籍を認めよ」でしかないと考える。
以上


記録作成:AMF2020   2020年9月1日

#国籍 #二重国籍 #重国籍 #複国籍 #台湾 #日本国籍     



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