とある星のはなし

ある星に、地下に住む生き物がいました。その生き物は、地下で生まれ、地下で死にます。それが普通で、誰も疑いませんでした。
 その生き物には、視力がほとんどありません。地下での生活に、視力は必要ないからです。そんな中、その女の子だけは、他の人と比べて視力が著しく良かったのです。女の子は見えないふりをしていましたが、皆が見えないもの、見たくないものもたくさん目にしました。地下には色がなく、皆同じに見えます。それは、とても辛いことでした。自分の目が憎いと思いました。綺麗なものなんてないのに、何故見ないといけないのか。女の子は悩み、苦しみました。でも、見えないのも怖いと思いました。綺麗なものを、女の子は知っているような気もしました。
 ある日のことです。女の子は、流れ星を見たいと思いました。いや、前から思っていたのかもしれません。女の子に、流れ星が何のことかは解りません。でも、綺麗なものだということは知っていました。いつだったか、家にあった本で読んだのです。流れ星は綺麗なものだ、と。
 それから少しの月日が経ち、女の子は、地上へ出ることを決意しました。町の外れの階段から地上へ出られるのは、本で読みました。時計の針がてっぺんで重なる時、女の子は階段を上ります。
 そこには、女の子の見たことのないものがたくさんありました。そこらじゅうに色があります。女の子は驚きました。
 女の子が空を見上げると、光るものがありました。どんどんこちらへやって来ます。あれが流れ星かもしれないと思いました。
 綺麗、かもしれません。綺麗じゃないかもしれない。女の子には解りませんでした。地上には、たくさんのものがありすぎるのです。たくさんのものが一度に目に入って来ます。女の子は混乱しました。
 やがて、女の子の目に、さっきの光るものと不思議な生き物が見えました。女の子と同じような生き物には見えるのに、何故か不思議だと感じました。そのうち、女の子は、不思議な生き物に手を掴まれ、押さえられ、光るものの中へと連れ込まれました。光るものは流れ星ではなく、その生き物の乗り物だったのです。
 女の子はたくさんのものを見ました。その乗り物は、女の子の住んでいた星から遠くへと進みます。そのときに窓から見えたのは、ちっぽけな青い星でした。
 あんなにたくさんの色があったはずなのに、それはただただ青いだけの星でした。女の子は、その青が見えなくなるまで、ずっとその星を見ていました。青が見えなくなったとき、女の子の頭には地下のことがありました。
 地下の色が、一番綺麗だったと女の子は思いました。
 おしまい。

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