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翠の雨が降る頃に。【02】

「はい、おまたせしました。」

机の上にグラスを置くと、氷がからんと小気味よい音を立てた。

その日が、あまりにも暑過ぎた。じりじりとした熱気で頭がぼんやりしていたのだろう。つい、アイスコーヒーをたくさん作り過ぎてしまったのだ。そして、その日がたまたまお店の営業日だった。これはもう、サービスドリンクにするしかあるまい。

お客様の元へ足を運び、飲み物を渡す。ただそれだけなのだが、普段やっていない動きに体が慣れない。開店したては、その慌ただしさに目を回しそうになっていたが、中頃になれば落ち着いて提供できるようになった。

すると、色々なものが見えてきた。日頃はあまり意識できない、お客様の細やかなところに気付くことができる。

そう、例えば。常連のお二人組が、コーヒーはブラック派というのも、新しい発見だ。開店初期から来て下さる、ヒューラン族とララフェル族のこちらのお客様は、いつだって統一感のある装いで来店される。合わせた配色やアクセサリー遣いが、お二人の素敵な関係と品のある雰囲気を作っている。今日は夏らしく、セーラーシャツでお揃いにしているようで、リムサ・ロミンサの波の音やカモメの鳴き声が聴こえてくるかのように思えた。

「ごゆっくりどうぞ。」

一礼して席から離れながら、私は自分のセーラーシャツをどこにしまったかな、と考え出していた。

明朝の天気予報は晴れだったような。
どうやら、明日の予定は決まったようだ。

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