見出し画像

翠の雨が降る頃に。【03】

勢いよく扉が開く。

錆び付いたドアベルがやや激しめに鳴ると、それは彼が来た合図。
店内のお客様と自分の目線を釘付けにする、彼である。




のしのしと、大きな身体と松葉色の着物を揺らしながら歩く彼は、どこへ行ってもよく目立つ。


それは、ルガディン族特有の色黒な素肌のせいか。

それは、肌身離さず付けている白い面のせいか。

それは、彼自身が良く笑い、周りを明るくするせいか。

それは、様々な人に笑顔を届けることのできる、素晴らしい一芸をもっているせいか。

(私は、そのどれもが彼の素敵なところだと信じてやまないし、彼を愛する数多の人もそう思っているに違いない!)



カウンター前に立たれると、余計に彼の巨体と雰囲気に圧倒される。
効果音を付けるなら、ずもももも、だろうか、なんて頭の片隅に思ってしまった。
しかし、面の下の表情は見えずとも、頬周りの筋肉の動きから、穏やかな笑みを浮かべているのが伝わってくる。



「ははは!今日も、譜面をお願いいたします!」


「はい、承りました!」



張りのある声で言われてしまったから、つい大きい声が出てしまった。
ふふふ、と口元を抑えてから、もう一度彼を見上げる。



あぁ、今日も白面堂の主は、よく目立つ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?