インターセプトでモメンタムが来る!……って本当?【NFLリサーチ紹介#1】
1. イントロ
(*雑談なので読み飛ばして大丈夫です)
実は先週ニューオーリンズに旅行していて、Week 16のSaints vs Dolphins の観戦に行っていました。日頃の行いが悪いのかSaintsのロースター53人中21人がCovid-19/Reserveリスト入り、先発はルーキーIan Cookということで3-20の惨敗でしたが、普段カリフォルニアに住んでいる自分はリアルでSaintsファンに会ったことがなく、第4QくらいまではテンションMAX、大盛り上がりでした。
中でも一番盛り上がったのは次のシーン。
後半開始直後、7点ビハインドからの劇的インターセプト。
これでモメンタムが来る!TD取って同点だ!
と思ったものですが、結果は…ファーストダウンは1回更新したもののあっさりパントに。 「やっぱりモメンタムなんて幻想なんだ…」と思う一方で、同じシチュエーションを良いQB、例えばTom Brady相手にやったら、次のプレイでロングパス一発TDを喰らう気しかしません。一般的な傾向としても、ターンオーバー直後って点が入りやすい印象です。
他にも、最近よく話題(争い)になるのが「4th down ギャンブル失敗したら相手にモメンタムが行ってしまう」という話。割と当然のように使われる気がしますし(今日もどこかで見た)、twitterで「ギャンブル失敗 モメンタム」って検索したら山のように出てきます。
…このイメージって正しいんでしょうか?
2. 今日の論文
同様の疑問を持った方が過去にいたようで、「守備のビッグプレー後はモメンタムを引き寄せるのか=その直後の攻撃の成功する確率が高いのか」の傾向を統計学的に調べた論文がありました。2012年にMIT Sloan Sports Analytics Conference(スポーツアナリティクスの学会では世界最大級)で発表されている論文です。
3. 論文の内容
3.1. 何を調べたの?
ターンオーバーを含む守備側のビッグプレー
(具体的には以下の6つ
(1) インターセプト (2) ファンブルリカバー (3) 4th down gambleをストップ
(4) セーフティー (5) フィールドゴール/パントのブロック(6) パントをマフ後、蹴ったチームがリカバー)
の直後の攻撃Driveの成功率
(Driveの成功は3つの指標で判断
(1) 最初の1プレー (2) ファーストダウンを更新できるか (3) ドライブでの得点)
を、2000年から2010年までの2921試合、473621プレーの中から1000ドライブ抽出して調べました。
比較のため、守備側ビッグプレーを含まない(=単純にTD, FG, パントなどの後の)ドライブも同数ランダムに抽出し調べています。
もしビッグプレーでモメンタムが動くなら、前者のDriveの方が直後の攻撃Driveの成功率が高くなるはずです。
3.2. データを集める条件
この方法の問題点として、スコアの差と残り時間によってはビッグプレーの影響が次ドライブの成功として出ないケースも考えられます。
例) 20点リードの第4Q残り1分、勝っているチームがインターセプトして攻撃権を得ても2回ニーダウンして終了です。上の基準だとドライブは「失敗」と見なされますが、それを「ビッグプレーが出たけどモメンタムが変わらなかった」という解釈はできませんよね)
そこで著者らはデータを集めるのを「第1クオーター、10点差以内」での守備側ビッグプレーに限定しています。
また、ゴールとの距離にも偏りが出ないように、使用するデータは10ヤード区間で均等になるようにしました(0-10, 10-20, …90-100の距離からスタートのドライブで同数のデータが入るようにした)。
3.3 結果
結果的には、(1) 最初の1プレー (2) ファーストダウンを更新できるか (3) ドライブでの得点 の3ついずれの指標で見ても、
ビッグプレー直後の攻撃Driveの成功率に統計学的に有意な差は出ませんでした!(具体的な値はこちらの5ページ目から)。
ファーストダウンの成功はわずか2%の差(誤差の範囲)しかなく、Driveの最終的な結果としてもフィールドゴール、タッチダウン、パントなど、いずれもほぼ同じ値が出ています。これも誤差の範囲内ですが、セーフティーで逆に2点取られるケースなどはターンオーバー後の方が多いという結果に。
4. 結論と問題点
「(論文で調べた条件下で)ターンオーバーを含む守備側のビッグプレーが出ても、その後のドライブの結果には影響はない」
が結論となります。
ただ、これは「モメンタムなんて存在しない!幻想だ!」という結論ではありません。以下のような問題点を著者は自ら指摘して、将来的な研究でモメンタムの存在が立証されるかもしれない可能性を認めています。
守備側のビッグプレーに数人の選手が奮起しても、今回調べた「ドライブの成功率=チーム全体の指標」には影響が小さい
(1とも関連しますが)特定のポジション(特にQB)のパフォーマンスを比較すると結果は違うかもしれない。また、選手によっても違うかもしれない。
オフェンスのミスを取り返そうとディフェンスチームが同様に奮起するため、相殺される可能性もある
これらを元に、論文の最終段落では
と締められています。私も論文を書く仕事をしていますが、お洒落な結びだなと感じます。
5. Amesの感想
研究手法がしっかりしていて「なるほど!」と思った一方で、モメンタムって試合終盤のターンオーバーの方が動くと思うので、第1Qのデータだけだと影響が出にくいのも仕方ないかもとも思います。(ただ第4Qとかは試合条件によりすぎて取り扱いが無理なのは納得)
あと著者も指摘していますが、ポジション別、選手別、あるいはコーチ別のデータがあれば面白いと思います。Bradyは絶対ターンオーバー許してくれないイメージあります。MahomesもいつかのプレーオフでHOUから逆転したやつとかミス逃しませんでしたよね。若いのに恐ろしい。
個人的には「モメンタム」はあると信じているのですが、それは試合の中に元々常に存在するというよりは、相手のミスが起こった時に即座につけ込める「モメンタムを利用するのが得意な選手/コーチ」が存在するのだと思っています。この研究とも矛盾しません。
6. 余談(NEファンは飛ばしてください)
この論文の著者が所属するマサチューセッツ工科大学はボストンにある大学で、ペイトリオッツのお膝元なんですね。実は論文のラストで次のような一節があります。
というように、論文の主旨には不要ですが、ペイトリオッツファンらしき例えを入れてきています。微笑ましいですね。隙あらばペイトリオッツの話をする。これだからPatsファンは…しかもエデルマンの綴り2ヶ所間違ってる。にわか。
7. 最後に
色々読んでみて分かったのですが、このようにNFLに関して大真面目に研究している人はとても多くいるので、機会があれば今後も紹介してみようかなと思います。モメンタムについても他にも大量に研究がありますし、議論の的の「4th down decision」についても。統計学の専門家ではないので、あまり難しくなると無理なのですが。。。
手元にある他の読めそうな論文のタイトルの例としては、
nflWAR:再現性のあるオフェンス選手の評価法
QBの予測における問題-なぜカレッジの活躍からの予想は難しいのか?
DCとHCがチームのディフェンス成績に与える影響
NFLのGamedayには犯罪率が増加する?
というように、NFL好きなら読んでみたくなるようなものばかりです。リクエストがあれば@sunflower_nflまでメッセージをください。長文読んでいただいてありがとうございました!
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