見出し画像

高機能アルコール依存症の疑い

日本語でググると、この言葉に関する的確な定義より、むしろアルコール依存症自体の定義と情報が検索結果として出てくる。

つまり「高機能」という概念よりも、一般的に知られている典型的なアルコール依存症についての情報がネット上では多い。

それもそのはずで、自身がアルコール依存症と気づいた時は、なんらかの社会問題を起こしてる事が多いからだ。つまり依存症が原因で、家庭内暴力を振るうったり、飲酒運転で捕まったり、仕事を続けられない状態に陥るということ。

しかし、それだけが依存症ではない。毎日仕事をこなし、普通の生活を営み、飲酒運転で検挙されることもなく、とりわけ暴力的にならなくても、依存症という病気を持ってる人はいる。

いや、むしろそういった状態の人たちが、実は多いのかもしれない。依存症予備軍として片付けられる事が多いので、本人になんらかの自覚症状が起きない限り気づかないものである。

自覚症状という点で、依存症はやっかいな病気だ。たとえなんらかの自覚症状、例えば高血圧や不眠、食欲不振や怠慢感、さらには気分障害を起こして家族に影響を与えてていても、それを自認しない人が多い。たとえ社会的に問題を起こしてどん底に落ちても、自身が依存症であることを否定し続ける人も多いそうだ。

夫が依存症なのでは?と友人に指摘されてから、私は彼の飲酒量を観察し始めた。今までそんなこともしたことない。なぜならそんなことをする必要性を感じなかったからだ。

そして、彼の飲酒量がとてつもなく多いという事を知った。米国立アルコール乱用・アルコール依存症研究所(https://www.niaaa.nih.gov/health-professionals-communities/core-resource-on-alcohol/basics-defining-how-much-alcohol-too-much)で規定してる適切量をはるかに超えていたのだ。1.75リットルのジン(アルコール含有量40%以上)のボトルを5日〜6日で飲み干す。それも毎日だ。飲まない日なんてない。

これを知って私はぞっとした。今まで全く気づかなかった自分にもぞっとした。いや、気づいていても、そういうものだと思って気にしないようにしてたのは確かだ。というのも、昼からたまに飲んでいる事に気づいていたものの、そういう行動をしてる人が普通に目にするから気にも留めてなかったのだ。

前回の記事でも少し触れたが、目立った症状といえば、夕飯時に目が座って会話にならない事があったり、夕食後にソファーで寝落ちすることぐらいだ。今振り返ると、それは明らかに泥酔状態なのだが、当時はそこまで飲酒の影響だとは思いもしなかった。

なぜ依存症を疑わなかったのかというと、彼の祖父が早寝早起きで、よく夜はソファーで転た寝をしていたという昔話を聞いていたからだ。事実夫が夜7時ごろから居眠りすることを打ち明けた時に、義母は笑い飛ばしたことがある。それは遺伝だと。。。

娘が生まれた8年前から夫は、徐々に飲酒量が増えて行ったと思う。目を疑うような奇行もあった。例えば、幼児用の三輪車に傾斜のあるドライブウェイに乗って、子供達の前で全身強打したことがある。手足に擦り傷を負って大笑いしてたのだ。あれは、奇行以外のなにものでもない。

スポーツの練習に子供達を連れて行く時、すでに飲んでいるのにも関わらず、車の運転を悪びれもせずに平気でしていた。私が「運転、大丈夫なの?」と訊くと、「自分の限界を知ってるから大丈夫。」と答えるばかり。

しかし、新型コロナウイルス世界的大流行が始まった頃から、夕飯時に居眠りすることが劇的に増えていった。完全リモート自宅勤務になり、昼から飲むこともあった。

そして、体調の方にも変化が起こる。高血圧がひどくなり、処方箋薬を服飲するようになり、消化器不調も度々患うことになったのだ。手の震えを私に見せてくれたことさえある。

それでも育児に忙しい自分は、「医者に詳しく診てもらったら?」とか「3食ちゃんと食べたらどう?」とか、そういった当たり障りない助言しかしていなかった。

私はアルコールが常にあるような家庭では育ってない。両親は親戚が集まる時にビールをコップ1、2杯飲む程度だった。私自身も週に1〜2本ビールを飲むだけ。

一方、彼の両親も筋金入りのアルコール嗜好家だ。彼らも毎日マティーニを夕方5時から飲む習慣があった。しかも、旅先にジンのボトルを持参するほど、飲むことが生活の一部になっている。

そんな家族の姿を見ながら20年以上を共に過ごしたのだから、ただ単に酒豪な家族としか私の目には映らなかったのだ。こう振り返ると、彼らも高機能アルコール依存者である可能性は色濃い。

毎日飲まずにいられない。この状態がすでに依存症らしい。依存症と依存症予備軍の境界線は曖昧だ。人によっては、毎日飲むことを依存症と決めつけるのはおかしいと言うかもしれない。

ましてや、毎日ちゃんと仕事をし、お給料をもらってくる。家庭内で暴言・暴力もなければ、社会的ダメージをもたらす素行もないとなると、典型的なアルコール依存者と大きくイメージがかけ離れている。

実は、私もその一人だった。高機能アルコール依存に関する本(Understanding the High-Functioning Alcoholic by Sarah Allen Benton)まで読んでも、彼をそうだと決めつけるのは理不尽なのでは?と自分を疑っていたのだ。だから、ちゃんと本人に私の懸念を打ち明け、病院に行って診断をもらって欲しいと思った。

とはいえ、そんな私の願いは、もちろん叶わない。本人は否定をするばかりだった。たとえカップルカウンセリングのカウンセラーに指摘されても、自分自身で飲酒量をコントロールしているから、自助グループミーティング(AA meeting)や医者に行く必要はないと言うばかり。

とにかく飲酒量の問題は抱えてるが、「依存症」ではないとはっきり否定するのだ。まさにこれは典型的な依存者の態度らしい。

私は、彼の態度に絶望した。カップルカウンセリングを3回行って中断した。本人が断酒をするつもりがないのなら、カウンセリングに行く意味が全くないからだ。

たとえポジティブなコミュニケーションスキルをカウンセリングから学ぼうと、根本的な問題が解決してない。

カウンセラーが夫の依存症を指摘してくれたことは、大きな成果ではあったと思う。もうそれでカウンセリングの目的は果たしたと、私は思ったのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?