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記憶に残るその空間を選ぶ理由

「マホガニーの家具が好きなのは幸せだった頃に囲まれていたものだからかもしれない」
好みだというマホガニー色のクラシカルな家具を眺めながら教えてくださった方がいた。

とても切ない気持ちになってしまった反面、やはり家という場所は記憶に残る原体験がたくさん残る場所であることを改めて考えさせられた。


家具を選ぶときにイメージすること

インテリアを探しにくるお客様は大体イメージはとてもふんわりしている。時々ものすごくはっきりとしたイメージを持っていらっしゃる方もいるけれど、そうでない場合のほうが多い。家具自体そんなに買う機会が多いものでもないし、情報過多の中で好みのイメージを見つけることはできるけど絞っていくことの方がはるかに大変だ。

その中でも家具選び、もっと言えば空間作りにおいて自分の中の体験を掘り出して、深掘りすることが部屋作りにおいていちばんの近道なのではないかと思う。

例えば”ホテルライク”インテリアは安定して人気だしワード力も高い。いちばん身近で非日常のインテリア体験だからというのもあるけれど、インテリア以外にも楽しい体験や思い出がそこにたくさん残っているということが一層記憶に残るものにしているのだと思う。

空間に囲まれるということ

インテリアがライフスタイルに及ぼす影響として、強烈な印象に残ったのは池貝知子さんのエピソード。
池貝さんは建築家にとどまらず、空間演出家として数々の物件や商業施設を手がけている。施設では代官山T-siteや二子玉川の蔦屋書店、個人邸で有名な方では梨花さんのご自宅を空間プロデュースされている。

その池貝さんの初めての仕事だというエピソード。
大阪から上場ならぬ世界を目指している若き社長さんの家を頼まれたのだそう。そのご依頼に繋がるご縁も凄いけれどはじめはその依頼を断ったのだという。
理由はその部屋が“1DK”であったから。世界を目指したい方がこんな小さな部屋では一流になれないからだという。そしてその物件は断ったけれど、その後その若き社長さんに“見合う”部屋として物件探し回り、そこから空間を作り上げたのだそう。もはや家具とか建築家ではなくライフスタイルへのアプローチがとても本質的だと思った。

この話のように人生のライフステージで高みを目指す方もいれば、理想の空間として求められるのはそれとは逆に安心感や寛ぎを感じられる場所も多い。

私の働くインテリアショップとして求められることとして多いのは圧倒的に後者だ。


無意識に好きなもののその先は


最近ではありがたいことにお客様や工務店さんのモデルハウスで一棟コーディネートのおまかせをしていただけることも増えた。
イメージや予算をヒアリングし最適な空間にしたいと常々思っている。毎回お客様の要望から踏まえた案は表面的すぎないだろうかと考えてしまうことがある。

本当に余計なお世話だけれど、
なぜソファが欲しいのか、それはソファである必要があるのか、アシュレイのソファだったらどれか最適だろうか、本気で考える。
最終的に選んでいただくのはお客様で、たくさん選択肢としての引き出しを用意できるように心がけている。それを選んで良かったと日々の生活の中で少しで思ってもらいたい。

今回「マホガニーの家具が好きだ」といったお客様。できれば違う色の空間を選んでいただきたいと思っている。その色の家具に囲まれて「幸せだったころ」以上に満たされる空間としてイメージすることができるだろうか。それを見ることで過去の幸福感ばかりが蘇るのであればそれはとても切ない。
原体験を覆すことはとてもとても無理だけれど、部屋で過ごす充足感を感じる方法として別の選択肢もあるし、大変おこがましいことをいえば、家具によって生まれるこれから見る新しい景色だってあるはずだ。


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