煙突の記憶

あの日はたまに夢だったんじゃないかと、今書いていても思う不思議な出会いだった。

前日に見ていたテレビの天気予報では降水確率0%で、ロケーション撮影には最適な天気のはずだったのに

朝起きたらバケツをひっくり返したような雨だった。
外にでて、雨を眺めているとポケットが振動し、仕事が延期になる連絡がきた。

撮影する気分だった私は、豪雨の自然でも撮りに行こうと思い立ち
目的地も決めずに車を走らせた

普段はよく聴くラジオもつけず、ただ雨音とエンジンの振動を感じながら、ただ気になる方へ行く

だんだんと車通りも少なくなり、道幅も狭くなった山道に行き着く

土砂崩れ注意の看板が増え始めたので、引き返そうかと思った矢先

ふと、視界の先に何かが動くものが見えた

気になった私は、車を止めて目を凝らしていると、木々の間からでてきたのは野生の鹿だった。

鹿と目があった瞬間、何かの合図のように、雨が止んだ。

どのくらいの時間が過ぎたのかわからない
もしかしたら時間に置いてかれたのかと思うぐらい静寂につつまれた山道で

私とその鹿はお互いにただ見つめ合っていた。

しばらくすると、鹿がふと私から視線を外し、反対側の山を見つめ始めたので、私もそちらを見ると

豪雨の視界の悪さで気がつかなかったが、木々の間から煙突が見えた。

こんな場所に人がいるのかと思っていたらいつの間にか鹿はいなくなっていた。

車に戻ろうかと思ったが、どうにも煙突が気になった私は車の鍵を閉めて、煙突の方に続く獣道を歩き始めた…。