下着の中の壊れたオルゴール

急いで小便をし終えて愛息をそそくさと戻してズボンのチャックを上げた時、中でパンツの前開きからちんちんが出てることがある。
暖簾から顔だけ出すぐらいの時もあるし、完全に出てることもあるしその間もある。

人間は、微妙に移り変わる曖昧な感情を常日頃感じている。それと同様にこの状態にも独特の感覚がある。

全裸、ちんちんを出す、ノーパン、似たような状況はいくらか思いつくが、「締め切られた密室のズボンの中でパンツの前開きからちんちんがはみ出ている」状態にだけある妙な感覚。

違和感、と言われれば違和感である。
それが不快な人もあるだろう。
即座に愛息を然るべき場所に戻して、どこかへ向かおうとするのだろう。

一方私は立ち止まる。

そしてこの感覚に合う言葉を探り始める。
体勢を変える。
手書きの町内地図を見てみる。道路の幅が店の大きさに比べて狭すぎる。
おばあさんの重い荷物を持って、今の私の存在が善と悪のどのあたりに位置しているのか考えてみる。

そして時は訪れる。

「頬の伝導だけで聞こえる、箱を閉じても動き続けてるオルゴールの音」

まさしくこれだ
見つけたのだ

私はエリーゼのためにを歌いながらズボンのチャックを下ろし愛息を然るべき場所に戻す。
チャックを上げるに従ってエリーゼのためにの音は小さくなりゆき、完全に閉めて演奏は終わりを迎えたのだ。


だけどもしかし、完全にしまわれた状態の普段のパンツの中でもエリーゼのためにが実際に鳴っていたことがあるのかもしれないなとふと思った。

                         それは、皮に巻き込まれ引っ張られて抜けた長短の隠毛が、弦楽器のように奏でたメロディで。


でもそれも、いくら耳を澄ましても聞こえない。頰でしか聞けない静かな音楽だから。
壊れたオルゴールのような。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?