見出し画像

IT系企業の契約(8)

あめにきのオフィスのnoteでは、スタッフが仕事をしてきたうえで気がついたことを、書いていきます。
毎週月曜日に更新する予定です。

IT系企業の契約にまつわる問題点を、いろいろみていきます。

プロジェクト中止(つづき)

では、プロジェクト中止について、裁判例(東京地裁平成19年11月30日)をみてみます。
ユーザである人材派遣会社が開発ベンダで業務システムの開発を委託しました。契約内容は、基本契約と個別契約に分かれています。この個別契約による第1段階の作業を行い、代金も支払われました。
次にベンダは第2段階の作業に入りましたが、途中でユーザが作業の中止を通知しました。理由は、親会社の不承認です。
ベンダはここで、そこまでの作業成果物を提出し、対価を請求しましたが、ユーザは支払いを拒みました。第2段階の作業についての個別契約はまだ結ばれていないという理由です。
特にユーザは、費用についての合意がないとしています。

これにつき裁判所は、第2段階についても発注されるだろうという信頼をベンダ側が持っていたことを認め、ユーザ側はその信頼を裏切って損害を被らせないように配慮する義務を負っていた、としました。
「業務システムの開発」という大きい流れについて、第1段階の作業は個別契約したのだから、次の段階も個別契約するだろうと期待するのはもっともだし、打ち合わせでもそれを期待させているのだから、作業中止についてはベンダ側が責任を負うべきだ、という流れです。
民法上の「信義則」というものです。
特に、ユーザ側が、ベンダの作業開始を知っていて協力的だったことも、裁判所の判断に影響しています。

契約書が交わされていなくても、またプロジェクト中止の可能性を認識していても、それでも契約が成立するという形になります。

その一方で、ベンダが求めた請求対価は全額認められたわけではありません。約1億円の請求に対して7000万円程度の支払いです。やはり発注を正式に求めなかったことがここで考慮されています。

ただ、納期が存在する(繁忙期や年度末までに完成する、など、動かせない納期は多いです)以上、正式発注を待って作業開始となると、制作側も苦しくなることもあります。
まずは契約書に準じるようなもの、例えば内示書を取れるのであれば取っておくとよいでしょう。正式な書面でなくても、メール文面でもいいです。それによって先方の意思決定を促す効果もあります。

また今回の裁判例は、多段階契約の重要性もわかる事案です。
もしこれが一括契約であれば、各段階の区分が契約上は明確ではない以上、「第2段階への期待」が認められなかった可能性がありますし、そもそも第1段階の作業代金も受け取れない可能性があったわけです。

次回に続きます。

*個人事業主や法人成り会社あたりの規模の経営者の方は、労務・広告・法務・経理、さまざまなサポートについて迷うこともあると思います。
ぜひ、「あめにきのオフィス」にご相談ください。(このnoteを書く最大の目的は、もちろん広告です。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?