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ツギクル芸人グランプリ予選会の話(事実)

 2023年5月24日

 今日はツギクル芸人グランプリ2023の予選会に出た.


 昨日の夜,最後のレポートを書き終えて,力尽きて眠ってしまった.なので,起きると床で転がっていた.時刻は九時手前.部屋の雰囲気はいつもの朝と同じで,本当に予選会があるのか疑った.なので,しばしの間,布団にくるまって,節々に予選会があるという事実を染みこませた.

 十時半過ぎに家を出た.しばらくして,家にSuicaを忘れたことに気付く.取りに帰る.再び家を出る.駅に着き,チャージをしようとして,家に財布を忘れたことに気付く.幸い,ゆうちょ銀行の通帳を持っていたので,急いで,お金を降ろしに向かう.穂村弘「蚊がいる」というエッセイ本は忘れていない.

 結果は十分ほどの遅刻.


 会場は池袋にあるので,池袋のカラオケでネタ練習をした.そして,ネタの台詞や登場人物の振る舞いをかなり変更した.ネタを書いている新井さんは,いつもぎりぎりで思いつくらしい.切羽詰まると思いつく.さすがと言うべきか.

 三人で面白い,面白いと言いながら,ネタ練習をした.柿田さんは,昔,美容師のネタで使うために,僕が貸したズボンを普通に履いてきていた.今日だけならず,たびたび履いているのを確認しているので,あげたことにしている.


 入り時間は十七時だったので,十六時半ごろにカラオケを出た.会場の入り口前に着くと,ツンツクツン万博の内藤さんがいて,ご挨拶.小道具が大量に置いてあった.その後,ゼンモンキーの荻野さんにも会って,ご挨拶.

 まだ入り口が空いていなかったので,コンビニへ向かった.新井さんは,最近,出番前によく飲んでいるチョコラBBではなく,それよりも高いおよそ五百円のチョコラBBを購入.一方,僕はケチって,百六十円のチョコラBBを購入.柿田さんは何かを購入.

 コンビニを出ると,荻野さんとネギゴリラの酒井さんがやってきた.酒井さんにMONSTAR飲む?と聞かれたので,ぜひと答えた.どうやら必勝のMONSTARらしい.荻野さん曰く,去年,酒井さんにMONSTERをおごってもらい,その結果二組とも予選会を突破したそうだ.

 なので,いろはラムネとして,一本奢ってもらった.MONSTERを手に持った感触から,確かに必勝だなと思った.


 会場入り口へと向かうと,開いていたので,入った.コントをする組は,場当たりをするので,客席でしばらく座って待っていた.

 今日の朝,春とヒコーキさんのネタ動画を見ていたのだが,場当たり時に春とヒコーキさんを見て,すごく不思議な感覚に襲われた.その後,春とヒコーキの土岡さんは,何故だか,皆がネタ中で使用する音源のボリューム確認係になっていた.

 場当たりを終えて,トイレに行き,また席に戻ると,僕の隣にニモテンのコマゴメさんが座っていたので,ご挨拶.嬉しく感じた.ニモテンさんとは最近,色々なライブでご一緒に出演させていただくことが多く,お世話になっている.

 場当たりと全体説明を終えて,楽屋へ行く.僕らの楽屋は会場の向かいにあるビックエコーの一室だった.五階.香盤によって,前半組と後半組に分かれて,後半組は後々楽屋入りする形で,僕らの楽屋は何の因果か,ネギゴリラさんとゼンモンキーさんと同じだった.

 部屋で少し台詞合わせをする.当たり前だけれど,緊張していた.酒井さんに奢ってもらったMONSTERを飲む.ああ,必勝の味.

 刻一刻と出番は迫る.正直,怖い.今日,かなり変更したし,何より,いわゆるビックチャンスがかかっている.全員余裕がない.僕は,駅伝選手の衣装に着替え,体を動かす.その姿は,もはや駅伝選手のスタート前と違わなかったと思う.凄まじい緊張で,もはや手に汗握らない状況.手足に血が通っていない気がする.冷たい.だから,必死に動かす.

 ネギゴリラさんとゼンモンキーの荻野さんが楽屋入りした.荻野さんは,ぬいぐるみを持っていた.UFOキャッチャーで取ったらしい.予選会を勝つコツを聞いてみると,どうやら出番前にUFOキャッチャーでぬいぐるみをとることらしい.くうう.


 ぬいぐるみを取る前に,僕らは出番を迎えた.カラオケのエレベーターは無慈悲に一階へと降りていく.僕らがどうなろうと,このエレベーターはただ上下していると思うと,羨ましく思えた.

 舞台袖の部屋に着くと,僕らの前の前の方がネタをしていた.そして,僕らの前だったぴろしきさんと,三月のラ・ママ新人コント大会ぶりにお会いした.僕はかなり痩せているのだが,今日の駅伝選手の格好もあり,この日のために身体を絞ったの?と言われた.かなり笑ってくださった.三月の時は,こんなに痩せているのだと知らなかったらしい.そのおかげで,少し緊張がほぐれた.本当にありがたい.

 そして,舞台へ.駅伝のネタは,眼鏡を外すので,お客さんの顔は見えない.それが功を奏した.無我夢中で,がむしゃらで,やった.やった.

 ネタが終わり,舞台袖の部屋に戻ると,ひどく疲れていた.極限の緊張と三分間の走る演技で,かなりのエネルギーを消耗した.ぜーはーぜーはー.あの時,僕は本当の駅伝選手だったと思う.


 楽屋へ戻り,すぐに荷物をまとめて,カラオケを出た.舞台に立った時間だけ考えるとあっけないと思う.でも,あの時間には,濃縮された感情や経験が何層にも重なっている.僕らにとっても,お客さんにとっても,高濃度で複雑な,三分間だ.

 舞台の余韻を味わいながら,三鷹駅へと戻る.余韻という言葉だと,なんだか優雅なように見えるが,内情は実に暴力的,今すぐにでもどこかへ走りたい気分だった.でもそこで,走らないのが,僕であって,走り出せる人になりたいなと強く思う.走る前に,いや荷物重いしなとか思っちゃう.

 いつのまにか,歩道の白線の上を歩いていた.思う.最近は,いろはラムネを応援してくれる人が増えた.面白いですと言ってくれる人が増えた.直接的に,それらを感じている.すごく嬉しい.だから,また頑張ろうと思う.思う.強く思う.拳を握る.手のひらに爪の痕が付く.四つの三日月.それは夜空の月に負けないぐらい,光っていたと思う.


 そんなこんなで今,部屋にいる.横で流れているのはくるりの「東京」だ.ある曲に対して,それが名曲だと知ると,それを聴いてみて良いと感じた時,自分がミーハーな気がして,それが恥ずかしくて,たびたび名曲とされる曲を聴いても,ふーんという顔をしようと心がけていた.名曲を名曲だと認めたくなかった.そんな自分が今,東京にいる.確かにいる.「東京」は,名曲である.



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